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運用担当部局:広報室広報係
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 「病室から院内学級へ通う病棟の廊下を、ランドセルを背負ってやってくる子どもがいます。入院していても、元の学校と同じように通いたいとの一心からです。病気の子どもにとって、学校はそれほど大きい存在なのです」と平賀健太郎准教授はその心理を代弁します。

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 本学の特別支援教育専攻には、日本でも数少ない病弱教育コースを有しており、平賀准教授はその研究者のひとりです。病弱教育は継続的な医療を受けている子どもが対象で、その病種は小児がんや心臓疾患、こころの病、怪我などさまざまです。入院中は「院内学級」に通えますが、退院後も通院治療など引き続きケアが必要なケースも多く、いわゆる通常の学校にも、病弱教育を必要とする子どもたちはたくさんいます。
 平賀准教授もかつては院内学級に通っていました。「恩返しのような気持ちで研究に携わっています」と語る平賀准教授ですが、「駆け出しのころは、子どもたちの気持ちを代弁するのだと意気込んでいましたが、次第に、わたしの話すことは本当に病気の子どもたちに共通することなのかという思いが強くなり、当事者の自分と研究者の自分との間でバランスが取れず、病弱教育の対象者であったことを窮屈に感じることのほうが多かったのです」と元当事者ゆえの悩みも抱えていました。11年間の研究人生を経て、「ようやく、ささやかな自信のようなものを持て、当事者としての心理も反映しつつ、研究者としてある程度客観的に話せるようになりました」とはにかみます。

 現在の研究活動の中核をなすテーマが「復学支援」です。復学とは、入院していた子どもが元の学校に戻ることを指します。「入院中の子どもたちは、早く元気になってクラスメートと遊んだり、勉強したりすることを励みに頑張っています。ただ同時に、自分が忘れられていないか、居場所はあるのかという不安も強く抱いているのです」。復学支援が必要な理由には、こうした心理が影響しています。「中には退院後、学校になじめない子もいます。学校に戻ることを支えにつらい治療に耐えてきた子どもたちが、『戻るんじゃなかった』と吐露する姿を思うと胸が締め付けられる思いです」。そこで必要となるのが地域の先生のサポートです。「入院の子どもを直接支えるのは院内学級の先生ですが、お見舞いやビデオメッセージなど、元の学校からの応援が闘病と復学への意欲につながります。二つは車の両輪のようなもので、どちらが欠けてもうまくいきません」と強調します。

 2015年からは、この春大阪に誕生するこどものホスピスで活動予定の学生を対象に、専門性を身につける「学びの支援講座」を開催しています。平賀准教授自身、講座を通して、学びの意義について考えることが多くなったといいます。「現代では“学び”が目標達成の手段になりがちで、純粋に楽しみにくくなっているのではないでしょうか。本来は逆で、“目標”の方が現在の“学び”を充実させる手段なのだと思います。病気によって学びが制限された彼らがなぜ学びたがるのか、それは、未知なものに好奇心を持つことで、未来を強く信じられるからではないかと思うのです」。忘れられがちな教育の本質が、彼らの姿を通して浮かび上がります。

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「学びの支援講座」での様子

 今後は、特別支援教育や病弱教育を学んだことのない学生に講義をしたいと考えています。「病気というのは、すべての子どもにかかるリスクがあり、すべての先生に病気の子どもを担当する可能性が十分にあるという意識を、今のうちから持ってほしいのです」。最後に、平賀准教授は教師の存在意義にも言及しました。とても辛いことですが、関わっている子どもが亡くなってしまうことがあります。教育の意味について思い悩みます。ただわたしは、その子どもにとっては、自分の成長を信じて、最後までそばで過ごしてくれた先生の存在そのものが、大きな意味があったと思うのです。教師は、子どもたちにとって決して替えのきかない存在なのですから」

(2015年9月取材)

※掲載内容はすべて取材当時のものです。