エッセイ

新任教師の試練

これは私がピカピカの新任教師の時の話です。教員採用試験に運良く合格して採用が決まり、学生の身で着任校に挨拶に行った時は、期待と不安が入り混じった気持ちがあったように感じますが、よく覚えていません。しかし、自分は良い教師になれるという根拠のない自信があったことは確かです。

初めの頃は、社会人になって間もないこともあり、反省や後悔の日々でしたが、児童と接している間だけは、仕事を楽しんでいるという感覚がありました。

当時、私は、理科の専科を担当しており、高学年の児童のクラスに関わっていました。廊下を歩いていると児童が話しかけてきて、たわいのない話をすることで、自分は小学校の一員なのだと感じることができました。授業をする中で、私が1番大切にしていることは「楽しい授業にすること」です。座学だけにならないよう多めに活動を取り入れたり、授業の内容から少し脱線して雑学を話したりするようにしています。また、これは各々の考え方があると思いますが、担任ではない専科の立場でしたので、担任よりも厳しい指導はしないようにしていました。

1学期はめまぐるしく過ぎましたが、大きなトラブルもなく順調に終えることができました。2学期になり、業務にも慣れ始めた頃、授業中にふざける児童が出てきました。特に目立ったのは6年生のAという児童でした。今までAは、立ち歩きをしたり、大声を出して授業妨害をすることが度々あったのですが、授業を中断して指導するほどではありませんでした。しかし、ガスコンロを使う実験中に、友達に対して消しゴムを投げつけて遊んでいたので、怒鳴り、激しく指導しました。

その日から、Aはよく反発するようになり、私との関係は悪くなってしまいました。確かに、今まではそこまで激しく指導することもありませんでしたし、休み時間は一緒に遊ぶこともありましたので、私は、Aにとっては「あまり自分を叱らない大人」という感覚があったのに、叱られたというショックがあったのだと思います。このショックというのは、教師という立場からすれば、指導に従わなかったAの甘えという一面もあると思います。しかし、それでも児童の感じ方はそれぞれだと思いますし、今までの私の、児童との関わり方を見直すきっかけにもなりました。

Aが反発するようになってから数ヶ月経ち、運動会前日の準備の日。ゴミ捨て場に段ボールを出しに行くと、たまたま他の用事だったAと出会いました。Aは気まずそうにしていましたが、声をかけました。「明日の運動会、Aのフラッグ見れるの、楽しみにしてるで。」授業中では、私が声をかけても無視したり、反発するAでしたが、今回は、1学期の頃のように、少し話をすることができました。おそらく、2人だけの空間だったので、Aも普段より素直に振る舞うことができたのだろうと思います。少し私も心がほぐれる感じがしました。運動会後からも、Aの指導をすることは度々ありましたが、Aも少し心を開いたのか、素直に指導を聞くことが増えました。

そこから時間は大きく進み、春、A達の卒業式です。1年間関わったこともあり、私も涙腺が緩みました。卒業証書を筒に入れ、渡す係をしましたが、非常に緊張したことを覚えています。

卒業式が終わり、正門で保護者の誘導をしていると、ふと声をかけられました。Aでした。「先生、一緒に写真撮ってや。」「卒業しても先生まだおるやろ?また遊びに来るわ。」

初任の1年間は、確かに反省も後悔も、憤りもたくさんありましたが、それは本当の意味で教師になるための試練でもありました。そして、運動会や卒業式というイベントと、時を重ねるにつれて成長してゆく児童の姿は、とてつもなく心を動かされ、勇気づけてくれるものでした。

私にとって、教師という仕事は、大変なことも多いですが、それ以上に、児童と関わるのが楽しくて続けているものだといえます。社会人になってまだまだ日が浅く、これからも様々な困難に直面することと思いますが、初心を忘れずに精進していこうと思います。