恩師への手紙

幻の読書感想文

古稀が過ぎ、これまでの人生を回顧したとき、大きな影響を与えて下さった中学1年生の頃の先生に、申し訳ないと心にしこりが残っていました。何故なら、お礼を言って来なかったし、又、出来なかったからでした。この度、大阪教育大学の「恩師への手紙」で感謝を伝える機会を得やっと安堵しました。

私の部屋の本棚に何度の転勤や転居でも手放さなかった茶褐色に変色した数冊の本の中に『にあんちゃん』のカッパブックスが目につきます。

中学1年の夏休みの宿題で、読書感想文の提出があり何を読み、どう書けば良いのか分からなく悩んでいました。これまでの小学生時代は、毎日公園等でソフトボールに明け暮れ本等読んだことがありませんでした。それで父に相談したら、当時話題になっていた佐賀の炭鉱を舞台に、貧しくともたくましく生きる兄弟姉妹を描いた、『にあんちゃん』を買って来てくれました。

宿題のため義務感と期限に追われて書き上げた最初の読書感想文でしたが、図らずも、当時若かった国語の女性担任だった先生から誉められ、「コンクールに出すから、ちょっと書き直しなさい」とある日言われ、何度も書き直しました。2年生になると父の都合で転校したため、結果について聞くこともできなく忘れていました。その後暫くして、先生が病気で亡くなられたことを何かの機会に知り、愕然としたのでした。こうして、最初の読書感想文は‘幻の感想文’となったのですが、本を読み文章を書くことを誉められたことは自信になり、学生時代新聞社等の読書感想文で何度か入選しました。読書により伝える力や調べる力等の「言語力」も身に付け銀行員となってからは、本部企画スタッフとして各種マニュアル、手続、企画書等の作成に携わってきました。

「歴史にIFは無い」と言います。もし先生に最初の読書感想文で誉められることが無かったら、私の人生も変わっていたかもしれません。人を育てることは、誉めることも必要なことだと、我が身を振り返り痛感しているところです。