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運用担当部局:広報室広報係

平成26年度学位記・修了証書授与式式辞

 ただ今,教員養成課程488名,教養学科392名,第二部83名,特別専攻科25名,修士修了者178名の皆さんの卒業,修了証書をお渡しいたしました。
 卒業証書を手にする学部卒業の皆さん,特別専攻科修了書そして修士の学位記を手にする皆さんに,心からおめでとうという言葉を贈りたいと思います。皆さんが手にする卒業証書,あるいは修了証書は,大阪教育大学におけるこれまでの努力の成果の証明書であり,また同時にこれから生きていく実社会での大きな足掛かりの一つとなるものです。大学における自分自身の到達点として大切にしていただきたいと思います。

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 さて,大多数の皆さんは,本日を節目としてこれまで慣れ親しんだ学生生活からおそらく想像さえしなかった領域へと足を踏み出すことになるでしょう。教職に就き教師としての生活を始める人,会社員や公務員として社会にはばたく人,これから皆さんが向き合って生きていく社会は,10年前に卒業あるいは修了した先輩たちが目の当たりにした世の中とは必ずしも同じ光景ではないだろうと思います。この10年の間に世界は大きな変化を経験してきました。二十世紀初頭,バルカン半島を中心に巻き起こった第一次世界大戦につながる政治的混乱の再現ではないか,と思わせる出来事が「アラブの春」と名付けられ,チュニジアを発端としてバルカン半島にまで及んだことは記憶に新しいことです。その影響は,現在進行中のウクライナとロシアとの対立にまで及ぶものです。経済に目を転じれば,リーマンショックから世界経済はいまだ立ち直っていません。中国経済の失速,ヨーロッパにおけるギリシャの経済危機は,その帰結であるとさえ言えるでしょう。このことは,これまでの経済システムによる成長神話が終焉の時を迎えているのだとむしろ考えるべきでしょう。

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 それでは,世界の中の日本はどうでしょうか。リーマンショックの余波から何とか立ち直ろうともがいていた日本の経済は,東日本大震災によって一層大きな痛手をこうむってしまいました。また,福島の原子力発電所に及んだ災害の影響は,亡くなられた多くの人々に対する私たちの悲しみをも超えて,今なお日本全体の大きな課題となっています。皆さんを待ち受ける社会はこうした状況に直面している社会です。私は,皆さんが晴れて卒業,修了を迎える門出に水を差すためにこのような指摘をしようとしているのではありません。皆さんを受け入れ,今,送り出そうとしている高等教育機関としての大阪教育大学の責任者として,現在私たちが向き合っている世界が歴史の大きな転換点に立っていることを正しく認識し,その世界に踏み出す自らの立つ位置と姿勢を決定して欲しいと願うからこそ指摘するのです。

 大きく揺らいでいるように見える二十一世紀初頭のこの時代が「産業革命4.0」を迎える時代であると特徴づけようとしている人々がいます。イギリスにおける清教徒革命が契機の一つとなってもたらされたマニュファクチュアリングによる生産構造の変革を第一次産業革命とすれば,フォードによる自動車の大量生産が象徴する二十世紀初頭の大衆による大量消費社会を生み出した第二次産業革命,そして皆さんの多くもその恩恵に預かっているコンピューターの登場とその結果生じた膨大な情報の民主化をもたらした1990年代における第三次産業革命に続いて,今,ドイツのバイエルン州を中心に統合コンピューターが他の多くのコンピューターをネットワーク化し,指示を出し,生産の全体を管理する,という第四次の産業革命が起こりつつあるという指摘です。近未来を描くハリウッドの映画にあるような,人間を媒介しない,人間を超えた存在としての人工知能が生産の指示と管理を行う,とされる時代の到来が始まろうとしているかのようにさえ思われます。私は,先だっての国立大学協会の総会の席で,文部科学大臣による,大学入試の改革と大学におけるこれからの人材育成方策の大胆な変革の必要を指摘する説明を直接聞く機会がありました。大臣の指摘は,今私が皆さんにお話ししていることと同じ内容を別の表現でされたものでした。その概要は次の通りです。日本は,今後前例の無い少子高齢化に向かっていくことになる。今後の二十年を見渡せば,大学への入学を迎える18歳人口は,現在の三分の一が減少する可能性をはらんでいる。さらにはまた,今後十数年の間に,大学を卒業して就職する人々のおよそ65%が,同じ職業であり続けることができなくなる,という指摘です。大臣の発言の趣旨は,そうした状況を克服するために日本は,教育の再構築をしなければならない,とりわけ高等学校から大学にわたる教育の接続に関して,質を確保し一層の高度化を図る必要がある,ということでしたが,近未来の社会における若年層を待ち構える状況については,私の指摘と軌を一にしていることがわかると思います。

 それでは歴史的な大転換の時代を迎える私たちは,これからどのように世の中の様々な課題と向き合っていけばよいのでしょうか。皆さんがこれまで一番の頼りにしてきたであろうご家族に相談し,その意見をもとに決定したらよいでしょうか。これまでと違って,それだけが生産的であるとは必ずしも言えません。ご家族も皆さんと同じように,これまで大転換の時代を経験してきておられないため,確実なアドバイスができるとは限らないからです。それでは,友人や勤務先の同輩達なら先を見通した助言ができるでしょうか。後になってみれば部分的に有効だったとみなすことのできる助言はあるかもしれません。しかし,それは包括的な意味づけによって行われない限り,「偶然」という言葉に近い意味しかもちようがないように思われます。

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 不確実の時代に私たちは向き合っているのです。こうした時代を生きぬくための確実なレシピやマニュアルはありません。自らが自立し,自分の信ずるところに従って行動するしかありません。その時に重要なのは,孤立して考えることではなく,ともに働くという「協働」の精神と,他者への思いやりに基づく「連帯」の姿勢であろうと私は思います。どのように優れたひらめきや思考であっても,それを肉付けし,伝え広める協働の作業や目的に向かって連帯するエネルギーがなければ,社会にとって有益な意味を持つことはできません。自らが自立しつつも,組織の中で協働し,連帯した関係を結んでいくことを今日卒業,修了される皆さんに期待したいと思います。大阪教育大学の学生は,幸いにもこうした点に優れています。悲しい思い出ではありますが,平成13年に附属池田小学校で8名の尊い児童の命が奪われた後,1年経っても大学は混乱の中にありました。学生の皆さんにも事実の概要を報告し,協力を求めたいとした私たち当時の執行部が学生集会を開いたところ,多くの学生が口々に参加と協力の声を上げてくれました。私はあの時の体が震えるほどの感動を忘れることができません。皆さんは,この数年間で十分に協働と連帯への基盤的な体験をしてきているのです。皆さんが大阪教育大学での経験に誇りをもって,これから活躍してくれることを期待しています。今こそ社会の大海原へ向けて帆を揚げて漕ぎ出す時です。「いざ海へ」という言葉を,今日の門出として,私からの挨拶を締めくくりたいと思います。
 本日は本当におめでとうございました。