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運用担当部局:広報室広報係

学長からのメッセージ「平成28年度学位記・修了証書授与式式辞」

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 ただ今、教員養成課程475名、教養学科408名、第二部81名、特別専攻科29名、修士157名、連合教職大学院35名の皆さんの学位記、修了証書をお渡しいたしました。
 学位記を手にする学部卒業の皆さん、特別専攻科修了証書そして修士の学位記を手にする皆さん、皆さんに心からおめでとうという言葉を贈りたいと思います。皆さんが手にする学位記、あるいは修了証書は、大阪教育大学における皆さんのこれまでの努力の成果の証明書であり、また同時にこれから皆さんが生きていく実社会での大きな足掛かりの一つとなるものです。大学における自分自身の到達点として大切に保管していただきたいと思います。

 さて、一部進学する人は別としても、大多数の皆さんは、本日を節目としてこれまで慣れ親しんだ学生生活からおそらく想像さえしなかった領域へと足を踏み出すことになるでしょう。教職に就き教師としての生活を新たに始める多くの卒業生、そして会社員や公務員として社会にはばたく卒業生、さらには専攻科や修士課程を修了した皆さん、皆さんが向き合ってこれから生きていく社会は、近年大きく変容してきましたし、また、現在も変容し続けています。長い間、自由と成功へのチャレンジが保障されてきたアメリカ合衆国が新政権の誕生によって大きく揺らぎ始めたことはその象徴ともいえる現象です。二十世紀初頭に世界の火薬庫と呼ばれたバルカン半島を中心とした政治的混乱が第一次世界大戦の火種となったように、国家間で生じている不安定要因が二十一世紀の新たな戦争に結び付くのではないかという恐れさえも呼び起こしかねない世界情勢が現実のものとして存在しています。ウクライナとロシアとの対立、ISと呼ばれる疑似国家とシリア、イラクの広範な領域における政府との対立、さらに、アフリカにおける政治的混乱と軍事衝突は、歴史が逆回転し植民地主義の時代の世界に連れ戻されるかのような印象さえ抱かせます。こうした争いによるシリアやイラクから西ヨーロッパへの難民の移動は200万人を超しています。
 経済に目を転じれば、リーマンショックから立ち直ろうとする世界経済は、インフレとデフレが同居するスタグフレーションの新たな敷居に立っている、と指摘する経済学者もいるほどの緊張が続いています。中国の経済の失速、ヨーロッパにおけるギリシャ等の経済危機は、解決されない課題であるとさえ言えるでしょう。このことは、むしろこれまでの経済システムによる成長神話が終焉の時を迎えているのだと考えるべきでしょう。

 それでは、世界の中の日本はどうでしょうか。リーマンショックの余波から何とか立ち直ろうともがいていた日本の経済は、東日本大震災によって一層大きな痛手をこうむってしまいました。また、福島の原子力発電所に及んだ災害やそれに続く熊本大地震の影響は、亡くなられた多くの人々に対する私たちの悲しみをも超えて、今なお日本全体の大きな課題となっています。さらに、隣国である韓国や中国との間で起こっている軋轢や北朝鮮による新たな軍事的挑戦は、世界における混乱とあたかも歩調を合わせるかのような印象を抱かせさえします。皆さんを待ち受ける社会はこうした状況に今なお直面している社会です。

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 私は、皆さんの晴れの門出に水を差すためにこのような指摘をしようとしているのではありません。皆さんを受け入れ、今、送り出そうとしている高等教育機関としての大阪教育大学の責任者として、現在私たちが向き合っている世界が歴史の大きな転換点に立っていることを正しく認識し、その世界に踏み出す自分の立つ位置と姿勢を決定して頂きたいと願うからこそ指摘するのです。

 日本は、今後前例の無い少子高齢化に向かっていくことになります。これからの二十年を見渡せば、大学への入学を迎える18歳人口は、現在の三分の一が減少する可能性をはらんでいる、と言われています。さらにはまた、今後十数年の間に、大学を卒業して就職する人々のおよそ65%が、AIの発達などにより、同じ職業であり続けることができなくなる、という指摘もなされています。そうした状況を克服するために日本は、教育の再構築をしなければならない、とりわけ高等学校から大学にいたる教育の接続に関して、質を確保し一層の高度化を図る必要がある、と言われています。この背景には、OECDによる学力調査で、日本の義務教育諸段階における知識力、思考力、論理力等が高いレベルにあるにもかかわらず、高等学校及び大学における学力の質保証が不十分である、という結果が出ていることがあります。実際、近隣の外国では、途上国とされている国であっても、高等教育機関に属する学生の知識や学力の増進への熱意は近寄りがたい迫力を感じます。学習への意欲の、言ってみれば逆の格差が近未来の社会において果たす役割は決して小さなものではない、ということを今多くの日本の識者が感じ始めているのです。私を含め大学人の今後の大きな課題の一つであると考えることができます。

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 それでは歴史的な大転換の時代を迎える私たちは、これからどの様に世の中の様々な課題と向き合っていけばよいのでしょうか。皆さんがこれまで一番の頼りにしてきたであろうご家族に相談し、その意見をもとに決定したらよいでしょうか。ご家族も皆さんと同じように、これほどの大転換の時代を経験して来られていないので、確実なアドバイスは難しいかもしれません。それでは、友人や勤務先の同輩達なら先を見通した助言ができるでしょうか。後になってみれば部分的に有効だったとみなすことのできる助言はあるかもしれません。しかし、それは包括的な意味づけによって行われない限り、「偶然」という言葉に近い意味しか持ちようが無いように思われます。不確実の時代に私たちは向き合っているのです。

 こうした時代を生きぬくための確実なレシピやマニュアルはありません。自らが自立し、自分の信ずるところに従って行動するしかありません。その時に重要なのは、孤立して考えることではなく、ともに働くという「協働」の精神と、他者への思いやりに基づく「連帯」の姿勢であろうと私は思います。どのように優れたひらめきや思考であっても、それを肉付けし、伝え広める協働の作業や目的に向かって連帯するエネルギーがなければ、社会にとって有益な意味を持つことはできません。とりわけ、卒業する皆さんの多くが赴くことになる学校現場では、頼れる先生を待つ多くの子どもたちがいます。自らはしっかりと自己を確立し、自立しつつも、生徒たちと手を結びあい、共に成長しようとする連帯の志を持った「頼りになる」先生が待たれているはずです。大阪教育大学は、現在日本で最も多くの専任の新任教員を学校へ送り出している大学です。また、学校現場だけに限りません。企業であっても同様に、自己を確立するとともに、組織の中で協働し、連帯した関係を結んでいくことは組織の発展のための基本である、と考えられます。今日卒業、修了される皆さんに期待したいのはこのことです。大阪教育大学の学生は、幸いにもこうした点に優れています。悲しい思い出ではありますが、平成13年に附属池田小学校で8名の尊い児童の命が奪われ、多くの生徒が負傷した後、1年経っても大学は混乱の中にありました。学生の皆さんにも事実の概要を報告し、協力を求めたいとした私たち当時の執行部が学生を対象とする全学集会を開いたところ、多くの学生が口々に参加と協力の声を挙げてくれました。私はあの時の体が震えるほどの感動を忘れることが出来ません。皆さんは、これまで十分に協働と連帯への基盤的な体験はしてきているのです。皆さんが大阪教育大学での経験に誇りを持って、これから活躍してくれることを期待しています。今こそ現実社会の大海原へ向けて帆を挙げて漕ぎ出す時です。「いざ海へ」という言葉を、今日の門出として、私からの挨拶を締めくくりたいと思います。
 本日は学部生の皆さんの卒業、そして特別専攻科並びに大学院の皆さんの修了、本当におめでとうございます。