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運用担当部局:広報室広報係

平成30年度学位記・修了証書授与式式辞

栗林澄夫学長

 ただ今、教員養成課程479名、教養学科392名、第二部87名、特別専攻科30名、修士158名、連合教職大学院33名の皆さんの学位記、修了証書をお渡しいたしました。
 学位記を手にする学部卒業の皆さん、特別専攻科修了証書そして修士の学位記を手にする皆さん、皆さんに心からおめでとうという言葉を贈りたいと思います。皆さんが手にする学位記、あるいは修了証書は、大阪教育大学における皆さんのこれまでの努力の成果の証明書であり、また同時にこれから皆さんが生きていく実社会での大きな足掛かりの一つとなるものです。大学における自分自身の到達点として、大切に保管していただきたいと思います。 

 さて、一部進学する人は別としても、大多数の皆さんは、本日を節目としてこれまで慣れ親しんだ学生生活からおそらく想像さえしなかった領域へと足を踏み出すことになるでしょう。教職に就き教師としての生活を新たに始める多くの卒業生、そして企業人や公務員として社会にはばたく卒業生、さらには専攻科や修士課程を修了した皆さん、皆さんが向き合ってこれから生きていく社会は、近年大きく変容してきましたし、また、現在も変容し続けています。ほぼ一世紀にわたって、自由と成功へのチャレンジが保障されてきたアメリカ合衆国が新政権の誕生によって大きく揺らぎ始めたこと、それに呼応するかのように中国が「一帯一路」政策をもってアメリカとは逆方向のヨーロッパに向かって連帯を強化しているのは、その象徴ともいえる現象です。また、英国のEUからの離脱であるブレグジットを巡って大きく揺れるヨーロッパの姿は、今、世界が大きな変革の波に遭遇していることを改めて私たちに認識させます。

 これらの事実は、情報技術の急激な発展とそれを活用する機械技術の革新が、人間の能力を追い越し、限界を突破しようとすることから、人間が技術革新の前に隷属的な存在となるかもしれないという不安感から生み出されているのではないか、という人類全体の未来に対する限界さえ連想させるほどの衝撃となっています。
 経済に目を転じれば、インフレとデフレが同居するスタグフレーションの新たな敷居に立っている、と指摘する経済学者もいるほどの緊張が続いています。アジア全体の経済の停滞、ヨーロッパにおけるギリシャ等の経済危機は、解決されない課題であるとさえ言えるでしょう。このことは、これまでの経済システムによる成長神話が終焉の時を迎えているのだとむしろ考えるべきでしょう。

学位記授与の様子

 他方、日本は、今後前例の無い少子高齢化に向かっていくことになります。今後の二十年を見渡せば、大学への入学を迎える18歳人口は、現在の五分の一が減少する可能性をはらんでいる、と言われています。さらにはまた、今後十数年の間に、大学を卒業して就職する人々のおよそ65%が、AIの発達などにより、同じ職業であり続けることができなくなる、という指摘もなされています。そうした状況を克服するために日本は、教育の再構築をしなければならない、とりわけ、高等学校から大学にいたる教育の接続に関して、質を確保し一層の高度化を図る必要がある、と言われています。この背景には、OECDによる学力調査で、日本の義務教育諸段階における知識力、思考力、論理力等が高いレベルにあるにもかかわらず、高等学校及び大学における学力の質保証が不十分である、という結果が出ていることがあります。実際、近隣の外国では、たとえ発展途上国に分類される国であっても、高等教育機関に属する学生の知識や学力の増進への熱意は近寄りがたい迫力を感じさせるものがあります。学習への意欲の、言ってみれば逆の格差が近未来の社会において果たす役割は決して小さなものではない、ということを今多くの日本の識者が感じ始めているのです。私を含め大学人の今後の大きな課題の一つであると考えることができます。

 それでは、歴史的な大転換の時代を迎える私たちは、これからどのように世の中の様々な課題と向き合っていけばよいのでしょうか。皆さんがこれまで一番の頼りにしてきたであろうご家族に相談し、その意見をもとに決定したらよいでしょうか。これまでと違って、それだけが生産的であるとは必ずしも言えません。ご家族も皆さんと同じように、これまで大転換の時代を経験してきておられないため、確実なアドバイスができるとは限らないからです。それでは、友人や勤務先の同輩達なら先を見通した助言ができるでしょうか。後になってみれば部分的に有効だったとみなすことのできる助言はあるかもしれません。しかし、それは包括的な意味づけによって行われない限り、「偶然」という言葉に近い意味しか持ちようがないように思われます。不確実の時代に私たちは向き合っているのです。

式典の様子

 こうした時代を生きぬくための確実なレシピやマニュアルはありません。自らが自立し、自分の信ずるところに従って行動するしかありません。その時に重要なのは、孤立して考えることではなく、ともに働くという「協働」の精神と、他者への思いやりに基づく「連帯」の姿勢であろうと私は思います。どのように優れたひらめきや思考であっても、それを肉付けし、伝え広める協働の作業や目的に向かって連帯するエネルギーがなければ、社会にとって有益な意味を持つことはできません。とりわけ、卒業する皆さんの多くが赴くことになる学校現場では、頼れる先生を待つ多くの子どもたちがいます。しっかりと自己を確立し、自立しつつも、生徒たちと手を結びあい、共に成長しようとする連帯の志を持った「頼りになる」先生が待たれているはずです。大阪教育大学は、現在日本で1,2を争う多くの専任の新任教員を学校へ送り出している大学です。また、学校現場だけに限りません。企業であっても同様に、自己を確立するとともに、組織の中で協働し、連帯した関係を結んでいくことは、組織の発展のための基本であると考えられます。今日卒業、修了される皆さんに期待したいのはこのことです。大阪教育大学の学生は、幸いにもこうした点に優れています。悲しい思い出ではありますが、平成13年に附属池田小学校で8名の尊い児童の命が奪われ、多くの児童が負傷した後、1年経っても大学は混乱の中にありました。学生の皆さんにも事実の概要を報告し、協力を求めたいとした私たち当時の執行部が学生を対象とする全学集会を開いたところ、多くの学生が口々に参加と協力の声を挙げてくれました。私はあの時の体が震えるほどの感動を忘れることが出来ません。皆さんは、これまで十分に協働と連帯への基盤的な体験はしてきているのです。皆さんが大阪教育大学での経験に誇りを持って、これから活躍してくれることを期待しています。今こそ現実社会の大海原へ向けて帆を挙げて漕ぎ出す時です。「いざ海へ」という言葉を、今日の門出として、私からの挨拶を締めくくりたいと思います。
 本日は学部の皆さんの卒業、そして特別専攻科並びに大学院の皆さんの修了、本当におめでとうございます。