携帯ウェブサイト
運用担当部局:広報室広報係
*

「どうすれば教育現場を変えられるのか?」。2年前、ユダさんは悩みの渦中にいました。地元の大学を修了後、数学教諭として3年間高校の教壇に立ち、その後2年間、小学校で教員コーディネーターとして教育現場を支援しました。そこで、壁に直面します。

*

 「子どもの個性が十人十色であるように、学力にも違いがあるため、どこかに標準を設定する教育はよくない。一方で、小中高とステージが上がるごとに脱落する子どもが増えていくのも、インドネシアの現実で、この負の連鎖を断ち切らないといけない」と考えました。しかし前途には、インドネシアの様々な問題が横たわっていました。「PISAなどの国際学力調査でも毎回最下位グループなのに、政権が変わるごとに検証もなくカリキュラムを改訂します。改訂に着手する権威たちも現場が抱えている問題に目を向けようとしないのです。そして現場の教員も、信じられないかもしれませんが、無免許の者が存在します」
 他国の教育制度はどうなっているのだろう?との考えがよぎったとき、学生時代に読んだ学術書で、授業研究に優れていると評されていた日本の存在が頭に浮かびました。「PISAでは毎回トップクラスで、客観的な統計データが教育成果を証明しています。解決の糸口もここにあるのではないか。ぜひ自分の目で、耳で、確かめなければ」と思い立ち、日本国政府の教員研修留学生制度を利用して、単身大阪にやってきました。

 本学の留学プログラムの一環として、附属学校での授業参観があります。指導教員の柳本朋子教授に連れられ、そこで日本の学校教育の“不思議”と出会いました。「インドネシアは1クラス32人ですが、日本は40人とそれよりも多い。そんな大所帯でも授業はもちろん、カリキュラムの組み立てや授業準備、理解度の把握などがうまく機能・循環しています。これは驚異的なことですよ」と興奮気味に語ります。「給食の準備や片付けも、子どもたちが行っていますね。そうした学校文化についても、どういう背景があるのか、もっと学校の奥の奥までつぶさに観察して解明したい。ここには、教育現場を変えるヒントが必ずあります」と熱を込めます。

その意欲的な姿勢から、本学の学生とも馴染んでおり、授業ではいつも学生が通訳を買って出てくれるそうです。「授業集中の妨げになっていないか気に掛かっているのですが、本当に助かっていてありがたいです。わたしを挟んで通訳学生が両脇を占める座席配置なので『ユダのサンドイッチだね』って笑い合っています」
 日本の暮らしにもなれましたが、ムスリムのユダさんにとって、最初は大変なことも。「焼きそばにお好み焼きなど、おいしそうな食べ物にはどれも豚肉の表記があって参りました。当初は醤油の独特なしょっぱさにも馴染めなかったのですが、今はすしもうどんも堪能していますよ」。お気に入りのスポットはアウトレットモールで、「日本は物価が高いといわれますが、賢く買い物すれば良質で安価な中古品がたくさん見つかります」と満足顔。

*

 インドネシアの良いところは?と尋ねると、「故郷のバンドン!」と即答。「食べ物がおいしく、温泉も湧いていますし、皆とても親切です。妻と4人の子供を残してきたので早く会いたい」と再会を心待ちにしています。
 インドネシアに戻ったら、「本学での学びをはじめとする、これまで自分が培った知識・経験のすべてを詰め込んだ学術書を執筆して教師に影響を与えたい。たくさんの生徒に関わるのが一番ですが、直接的な教育指導だけでは範囲も効果も限定的ですから、まず指導者に波及させたい」と希望を抱きます。海外の権威による教育書は豊富ですが、インドネシア人が書いたものはまだまだ少ないそうです。「インドネシアの教育に即したインドネシア人のための本を。現場には情熱と志を持った教師がたくさんいますから、教育の質を高めれば、遠くない将来、日本の良い競争相手になりますよ」

(2015年7月取材)

※掲載内容はすべて取材当時のものです。