エッセイ

高等学校
2021/01/20
1年遅れの運命の出会い
 

中学1年生のときに卓球部に入部し、もうかれこれ10年以上卓球を続けている。そんな私にとって、教員になり卓球部の顧問をするというのは1つの夢だった。 

採用試験に合格し、配属先が決まった時、真っ先に学校のHPで卓球部について調べた。すると、その学校に卓球部はなく、卓球同好会なるものがあった。部活ではないものの、卓球の指導ができることに変わりはないと、期待を膨らませその日を待った。 

配属初日、初めてのことばかりで右も左もわからない私だったが、クラブ顧問一覧の紙だけは逃さず目を通した。そして衝撃を受ける。卓球同好会の名前がどこにもなかった。 

確かに去年までは卓球同好会は存在していた。しかしながら卓球同好会は顧問の持ち手がいなくなり、学校のクラブ規定により廃部にすることになったらしい。初日にしてなんともやるせない気持ちになったのは間違いない。見かねた先輩教員が1つの希望を与えてくれた。
「厳しい条件が続くが、クラブを新しく創設することはできるよ。」創設にはまず同じように同好会を立ち上げる必要がある。1年以上の同好会としての活動、規定人数以上の会員、そして部として活動させてもいいと学校から承認を得ること、これらの条件達成に向け早速私は動き出した。 

担当していた1年生の授業で卓球部を作りたいと宣伝をしたところ、1人の1年生が「やりたい!」とさらにもう1人をつかまえてやってきてくれた。やりたい生徒がいるのならば本気で動こうと、去年まで卓球同好会として活動していた2年生3名に声をかけた。正直言って、「もういいです」と断られる覚悟をしていたが、3人から返ってきた言葉は私をさらにやる気にさせてくれた。「また卓球ができるんですか。」そこからはあっという間だった。学校にある用具の確認、練習環境の整備、1人1人の練習メニューに、クラブTシャツの作成。みんなで試行錯誤しながら活動を進めた。そんな私たちの活動を見て、1人の卓球経験者の1年生が入りたいとやってきてくれた。これで規定人数はクリア、あとは学校に認めてもらえる結果を出すだけである。

同好会は高体連の試合への参加は禁止されている。そこで、スポーツ連盟が主催する市の大会に出場させることにした。中級者クラスの出場とはいえ、大人も出場する大会である。彼らはその大会で3位に入賞し、賞状を学校に持ち帰った。そんな順風満帆な私たちの前に大きな壁が立ちふさがった。コロナウイルスである。

部活動を行うことはおろか、いつ部活を再開できるかわからない状況であったが、彼らが戻ってきたときに吉報を届けられるよう、部昇格の申請を学校に提出した。意義を唱える人は誰もおらず、正式に卓球部として認められ休校明けの彼らを迎えることができた。

それから1ヶ月後、3年生3人の引退の日がやってきた。彼らが最後に書いた部活ノートは涙なしに読むことはできなかった。「先生のおかげでこんなに上達することができました。」「ここが僕の居場所でした。」「自分が1年生のときからこの部活があったらよかったのに。」

彼らからすれば、まったく知らない新人の教師から急に卓球をやらないかと声をかけられるという、なんとも詐欺みたいな話だったと思う。それまで自分たちがやってきたことと大きく違っていたかもしれない。それでも私を信じてついてきてくれた。彼らの「もう1年早く先生と出会いたかった」という言葉は私にはあまりにももったいなさすぎる言葉だった。たまたま卓球の場を奪われた生徒がいて、そこにたまたま卓球の指導ができる教員が配属され、たまたま卓球をしたいと思う新入生が入学し、たまたま全員が出会った。ただそれだけの話である。しかし、これを運命と言わずに何と言えばいいのだろうか。