エッセイ

中学校
2020/10/30
子どもを信じて

1.初めての班長会

学級経営がうまくいかなかった。職員朝礼で生徒指導担当の先生から、「名札がついていない生徒が多い。」と聞けば、教室に上がって「名札がついていない生徒は立て。」と怒ってしまう。そんな担任のクラスがうまくいくはずがない。

先輩の先生から、「班長会で自分たちで班を作らせてみてはどうだ。」と言われ、すがる思いで生徒に提案したところ、「やります。」とのこと。

ある日の放課後、班長たちに「じゃ、頼むで。任せたから。」と班長を教室に残し、部活動指導に行く私。なんとひどい教師だろう。おまけに6時まで部活動指導をしていて、班長会のことを忘れていた。警備員さんに「先生のクラス、まだ残っていますよ。」との報告に、「何をしているんだ。下校時刻は過ぎているのに。」と腹を立てながら階段を駆け上る。すると、教室から生徒の話し声が聞こえてくる。

「〇〇は〇〇と一緒の方がいい。話し相手が他にいないから。」「〇〇と〇〇は小学校のとき、すごくもめたことがある。まだ根に持っているから離しておこう。」「〇〇がこの班にいないと、他に勉強を教えられる者がいないよ。」「〇〇と〇〇は同じにしておくのはもったいない。二人とも明るくて人を笑わせてくれる。こっちの班はおとなしいメンバーだから、こっちに一人入れよう。」など話し合っている。

黒板を見ると、班の机が書かれていて、生徒の名が何回も何回も書き直された跡があり、真っ白になっている。「なんだ、これは。」という思いの後に「こんなことを子どもたちだけでできるんだ。本気だ。」と思い、さっきまでの怒りの感情は吹き飛んだ。「すごい、すばらしい。」しばらく、廊下にいて生徒の話に聞き入っていた。

理想ばかり口にして、本音では生徒を信じていない自分がこのとき、はっきりと分かった。何と子どもたちって素晴らしいんだろう。自分たちの仲間のことをよく知っているから任せればいいんだ。任せることで伸びていく。こんな思いにさせてくれた生徒たちがいました。教師冥利に尽きます。

 

2.修学旅行の小遣いはいらない!!

その学年は、生徒たちの思いがいっぱいつまった修学旅行にしようという学年主任の先生の強い気持ちがあり、生徒による修学旅行実行委員が結成された。その初めての会議のとき、「旅行のお小遣いの額をみんなで決めよう。」と提案する先生に「無制限。」「1万円。」と声が上がった。当時(35年以上前)は4千円くらいが相場だったと思う。先生が「では、クラスに持ち帰って話し合ってくるように。結論は次回以降に決めよう。」ということで、何度か会議をもつ。

いよいよ、実行委員会で最終決定をするというその日のこと。先生「何度か話し合ってきたけど、今日は決めるよ。意見を聞こう。」と言うと、「先生。ぼくらのクラスは去年どおり、4000円。」「私のクラスは4500円。」との回答。先生が「初回とはすごく違うことになってきたね。」と返すと、生徒「それが、先生。先生がいつも『みんなが楽しめる修学旅行にしよう。』と言うでしょ。それを僕たちもクラスで何度も言ってきたんです。そうしたら、小遣い、みんなが高額を持っていけるわけではないことに気がついたんです。旅行の思い出は他にたくさん作れます、そう思ったんです。僕たち実行委員の本音は小遣いなしでいいくらいです。」と言いました。

横で聞いていた私は、感動で背筋がぞくぞくしました。何と温かい、何と仲間思いの生徒たちだと。今、書いていても涙が出ます。

大げさに言えば、人間が本来有する(と考えたい)友情が丸裸になって発露されたように思います。人間って、捨てたものじゃないなと衷心より思います。以後、数知れない「あったかい話」に遭遇しました。教師冥利に尽きます。みんな、本当にありがとう。