エッセイ

小学校
2020/10/29
忘れられない1年間

私は6年生で初めてAさんの担任となった。Aさんは低学年から5年生まで登校が数日しかできていない児童だった。まずはAさんと関わりを持ちたいと考え、Aさんの保護者とも相談し、Aさんの家で遊ぶことになった。Aさんの保護者を通じて、Aさんが遊びを楽しんでいたということを知り、それからは週1~2回、Aさんの家で遊ぶようになった。

6月になってからAさんに笑顔が見られるようになったが、それまで表情はかたいままだった。6月末のある日、Aさんと遊んでいると、「ボール遊びがしたい。」とのことだったが、Aさんの家にボールがなかったため、「学校ならボールがあるから学校でボール遊びする?今の時間なら子どもは誰もいないよ。」と提案した。「難しいだろうなあ…。」と思いながら提案したが、Aさんは「誰もいないんなら行こうかな。」と返答し、約1年ぶりに学校へ行くことができた。それから徐々に放課後に遊ぶ場所がAさんの家から学校へ移っていった。

2学期に入ると、放課後から私の空き時間にあわせて登校するようになり、週1回の別室登校ができるようになった。Aさんが別室で登校していることをクラスに伝えると、クラスのみんなが「Aさんと話したり遊んだりしたい。」と言ってくれた。ただ、そのことを別室でAさんに伝えると、「いい。(いらない。)」という返答だったため、班の人同士で交流する班ノートを使って友達と交流するという形をとった。

< 班ノートでのやりとり①>

B:Bです。Aさんの好きなものは何ですか。
A:ぼくのすきなものはドラゴンボールです。
C:おれもドラゴンボールがすきです!教室でいっしょに勉強したりいっしょに遊んだりしたい。

このようなやりとりを重ねるうちに、Aさんの気持ちに変化が見られるようになった。Aさんに、「BさんとCさんがAさんと遊びたがっているけど、どうかな?」と聞くと、「うん。」と返答があり、「呼んでも大丈夫?」と再び聞くと頷いた。BさんとCさんが休み時間に別室に来た際、Aさんの顔は少しこわばっていたが、すぐに打ち解けたようで笑顔が見られた。それからは、別室にBさんやCさん、他の児童も来て一緒に遊ぶようになった。

<班ノートでのやり取り②>

C:Aさんといっしょに遊べて楽しい。明日も遊べるかな?
A:明日もいく!BさんやCさんと遊びたい。

12月の終わりには別室で友達と一緒に給食も食べることができた。約3年半ぶりの給食だった。3学期に入ってから週3~4日別室登校ができるようになった。クラスのみんなはAさんが登校するのを心待ちにするようになり、「先生、今日はAさん、来てる?」と毎日のように確認があった。Aさんも友達との関わりが楽しいようで、毎日のように、「明日も学校へ行きたい。」と保護者に伝えていたそうだ。学校で過ごす時間も私の空き時間だけでなく、2限若しくは3限から給食終わりまでと長くなっていった。

Aさんは、別室だけでなく、教室の外の廊下から授業を受けたり、休み時間にみんな遊びに参加したりと、クラスのみんなとの関わりも増えていった。クラスがAさんを受け入れ、そして関わりを望んでいることが、Aさんにも伝わっていたと思う。卒業式に向けての話をクラスにした際には、クラスのみんなが「Aさんと一緒に、みんなで参加したい。」という思いを伝えてくれた。そして、「Aさんにも参加できるか聞いてみる。」「班ノートにも書いてみる。」と続けて言ってくれた。

<班ノートでのやり取り③>

C:卒業式、Aさんと一緒に、みんなで参加したいな。Aさん、参加できる?
A:うん、みんなとのさいごの日やからがんばって参加したい!

卒業式当日。Aさんはみんなと一緒に参加することができた。そして、みんながいる教室に入ることができた。

卒業式が終わってから、Aさんが私に手紙をくれた。「先生ありがとう。先生のおかげでこの1年間すごく楽しかった。本当にありがとう。」手紙を読んで涙が止まらなかった。そばにいたAさんの保護者も泣いていた。BさんやCさんたち友達と笑顔で語り合い、写真を撮り合っているAさんの姿はとてもキラキラしていた。Aさん、こちらこそ本当にありがとう。Aさんと過ごした1年間は一生忘れられない宝物になった。