エッセイ

小学校
2020/10/28
数々のドラマが生まれる6年担任の一年間

4月、新年度がスタートしてできるだけ早い時期に、体育の授業で跳び箱を行う。6年生でもクラスに何人かは開脚跳びができない子供がいる。これまで何年間も「跳び箱が跳べない」というコンプレックスを抱えてきた子たちである。跳べない子を集め、指導をすると、これまで一度も跳べなかった子が、次々と跳べるようになる。クラス全員から沸き起こる拍手。跳び上がって喜ぶ子。何とも言えないうれしそうな表情をする子。「今日、学校でとびばこをしました。最初はできなかったけど、先生に教えてもらったら自然にできました。まほうみたいですごかったです。」

4月中旬、学級全員で「でっかいこいのぼり」作りへの挑戦を始める。全員でデザインを考え、家にある古いシーツを持ち寄り、グループごとに分担して絵を描いていく。6枚のシーツを縫い合わせると教室いっぱいの長さになり、「でっかい!」と歓声が上がる。ゴールデンウィーク前に完成させ、国旗掲揚等に揚げる。春の風を受け、青空に気持ちよく泳ぐ手作りの巨大なこいのぼり。見上げる子供たちの誇らしげな表情。「みんなで作った巨大なこいのぼりをあげたら、すっごく気持ちよくて、大きなことをやりとげた感じでした。」「こいが泳いでいるのを見たら、『やっぱりみんなの力はすごい!6年生ってすごい!!』って改めて思いました。」

三学期に行われる長縄大会に向けて、二学期から本格的に練習が始まる。長縄に大切なのは「おもいやり」「おかげさま」「おたがいさま」の三つの「お」。これは学級作りのポイントとそのまま重なる。山本よしきさんの詩「喜びは 努力の枝の 先に咲く」を教室に掲げ、練習を重ねる。本番開始前、氷点下の寒さの中で円陣を組み、学級全員の人差し指を天に向け、頂点を目指す。「新記録で優勝!私は、先生が言っていた『喜びは 努力の枝の 先に咲く』の意味が、前よりももっとよく分かりました。」「一つ、自分の前にあった大きなかべをこせたような気がする。『必死でがんばれば、絶対にいい景色が待っているんだ!』って知った。」「今日のことは一生わすれないと思う。」

いよいよ卒業が近づく2月、連凧作りを始める。一人1枚ずつ凧を作り、学級全員の凧を一本の糸につなぐ。一枚の凧は小さく受ける風も少ないが、学級全員の凧が一本の糸につながると想像以上のたくさんの風を受けて大空に舞い上がる。糸の長さは優に100mを超え、その姿は圧巻だ。「空高くあがったときは、今までにない感動を覚えました。途中でぐるぐる回り出したり、骨がおれてしまうたこがあったりしたけど、みごとみんなのたこがフォローしてくれていて、まるで竜のように舞っていました。こんなふうに助け合って生きたいなあと思いました。」

卒業式後の最後の学級指導。保護者に教室へ来ていただき、担任として一年間の協力に対する感謝を述べる。その後、子どもたちによる「未来へ」の合唱。保護者へ向けてのサプライズ。このときのために、およそ一か月間「絶対内緒だよ」と子供同士声を掛け合い、休み時間も使って練習を続けてきた。小学校6年間の成長を間近に見ていただく。「♪母がくれた たくさんの優しさ…(※)」心を込めて精一杯口を開ける子供、ハンカチでそっと涙をぬぐう母親。担任としてもまさに至福のひとときである。

(※)(作詞:玉城千春)「未来へ」より引用