エッセイ

中学校
2020/10/21
二十三年前

二十三年前の夏休みに父が亡くなった。はじめて肉親が目の前からいなくなる現実を知った。必死の思いで2学期を迎えた記憶がある。担任をしていたクラスの生徒には、父のことなど一切触れずに黙々と日々を送った。体育大会、文化祭、合唱コンク-ルと生徒たちは、本当によくやった。特に、合唱コンク-ルで金賞をとった曲「はばたこう明日へ(※)」は、録音したものを帰りの車の中で聞いては、一人で泣いた。その歌いだしが「いつかは このときが 来ると思っていた 悲しいことだけど 今は泣かないで」。職場では毅然としていた分、一人になって生徒たちの歌声を聞くと、涙がとまらなった。

卒業式の前の日、父親が亡くなったこと、みんなの合唱で救われたこと、そして、毎夜一人で車の中で泣いていたことを正直に話した。すると、生徒たちは私を囲んで、最後に「はばたこう明日へ」を歌ってくれた。当時の同僚が、私の父が亡くなったことを生徒に伝えていたことが分かった。私をなんとか励まそうと、全員で行事に取り組もうと誓い合ったことも知った。

二十三年がたった。すっかりおじさん、おばさんになった卒業生から電話があり、クラスの同窓会をするので、絶対に来てほしいとのこと。行ってみると、三十人近くの参加があり、参加率の高さに驚くとともに、SNS上では、全員に連絡がつくようになったとか。懐かしい話やみんなが頑張っている様子が知れて、歓喜渦巻いているなか、一人の男が近づいてきた。彼が独身なのは、時々道端で偶然出くわしたりして、知っていた。ちょうど目の前に座っていた女の子に、ふと「こいつまだ独身やで」と言うと「えっ、私も」と意外な答え。その後で二人でしっぽり話していたとは、他の卒業生から聞いていました。

しばらくして、その独身の男の方から連絡があった。「相談したいことがある」と。何気なく聞いてみますと、なんと結婚すると。しかも相手は同窓会で再会したあの女の子だと言うではありませんか。驚愕しました。聞けば、小学校1年生のときと中学3年生の時に同じクラスだったとか。親同士が知り合いだったとか。中学時代は、ほとんど話をしたことがなかったはずです。担任でしたから、それは確認していますし、保証します。中学校を卒業して二十三年後の再会、そして、結婚。このGWに行われるはずでした結婚式はコロナの影響で延期。こんな少しの延期なんて、再会に要した二十三年に比べたら、ほんの一瞬のこと。楽しみが少し先に延びて、わくわくする時間が増えたと考えています。しかし、結婚式では、どんな挨拶すればいいのだろうか。

(※)作詞・作曲:松井孝夫