エッセイ

恩師への手紙
2020/10/19
1分1文字
 

私が小学6年生のときに、M先生が教育実習生として来られて以来、15年が経ちました。実習最終日にクラスの全員に渡された手紙の返事を、15年越しにはなりますが書かせていただきます。

その当時、私はとても、非常に、尋常じゃなく拘りが強い子どもでした。特に拘りが強かったのは「文字を書くこと」です。文字を綺麗に書きたい一心で、授業そっちのけで板書をノートに書き写し、もちろん授業が終わる頃には半分も書けていない状態でした。でも、休み時間には外で遊びたい。それでノート提出ができず叱られることも多々ありましたが、やはり字の綺麗さを捨てて、授業に追いつけるように書くことはできませんでした。その能力がないわけではなく、どうしてもそうしたくなかったのです。どれだけ叱られても、馬鹿にされても、そのときの私にはどうしようもなく、本当にわけがわからない状態でした。綺麗に書けなかったノートをビリビリに破ったこともありました。

そんな苦しいときに、M先生は実習最終日にくれた手紙の中でこんなことを書いてくれました。

「N君が書く1分1文字には驚かされました。誰よりも丁寧に、誰よりも真剣に字を書く拘りは尊敬します。その拘りはN君らしさ、強さ、武器になる。1分1文字、1歩1歩、誰よりもゆっくり前に進みましょう。でも、ノートからはなるべく目を離しましょう。」

この言葉に救われました、とは言いません。でも、本当に嬉しかった。だって、その手紙には一言も「早く書きましょう」なんて書いてなかったから。そして、1分1文字もかかるわけないやないか、と自分の拘りを自分で笑うことができました。それからも、文字を書くこと以外にも自分の拘りと周りとのギャップを感じることは多々ありましたが、その度に誰よりもゆっくり進んできました。

その後、その拘りは今や自分らしさであり、強みであり、武器となっています。あの手紙がなかったら、拘りは弱みになっていたでしょう。

そして、私はその11年後、自分の教育実習で6年生を担当しました。私も、M先生が私にとっての恩師であったように、誰かの恩師になれていたでしょうか。