エッセイ

恩師への手紙
2020/10/01
「人生の岐路」
 

S先生、ご無沙汰しています。その後お元気でお過ごしですか。私も50歳半ばになりあらためて先生に感謝の気持ちを伝えたいと思います。

今から30数年前になりますが、私は社会人として仕事をしながら大学の夜間部に通うという生活をしていました。高校を卒業して就職した私に対して、「近くに大学があるんだから夜間学部に通ったらいいよ。」という上司の助言もあり、また、大学で学ぶことを仕事に役立てようと考えたからです。しかし、慣れない仕事の後で夕方から大学に通うという生活は、世間知らずの私には想像以上に厳しいものでした。職場の先輩方には「早く仕事を切り上げて大学へ行きなさい。」といつも気を使っていただきましたが、それがかえって「申し訳ない」という気持ちにつながってもいました。「一旦、大学を退学して仕事を覚えてから大学へ通いたい。仕事が終わったら先輩と一緒に飲みに行きたい」そんな複雑な悩みに答えていただいたのがS先生でしたね。あの時の言葉は今でも私の心に深く残っています。

『もし君が本当に大学を退学するというのなら、私がグランドに引っ張り出して君の頬を殴ってやる。人は一度決めたことを簡単に諦めてはいけないものなんだ。人生で楽な道はないんだよ。』他人の私に対してここまで心配してくれる先生がいるのかと私は大きな衝撃を受けました。その後、仕事をしながら無事夜間学部を卒業したからこそ、今の自分があると思っています。

S先生、私の人生の岐路において大きな方向性を示していただき本当にありがとうございました。仕事上の困難や悩みを乗り越えて教育の世界でずっとこの仕事を続けているのは先生の助言のお陰です。この経験をこれからは私が後輩達にしっかりと伝えてまいります!