エッセイ

小学校
2020/09/18
「花さき山」白衣の出来事 ~本当の優しさ、温かさ、思いやりとは~

三年生を担任した時の2月の給食の時間でした。班毎の机の上に当番が手際よく給食を配っていました。が、当番のはずの二人が仕事をしていません。白衣も着ていません。「白衣が濡れていて気持ち悪い」というのが理由でした。

私は変だと思い日記をつけている赤ペンを置いて二人に事情を聞きました。それは・・・。

白衣は、週末にそれぞれが家に持ち帰り洗濯して月曜に持ってくることになっています。B子さんは白衣を持ち帰るのを忘れ、日曜日にわざわざ学校まで冷たい廊下を歩いてとりに来たのです。寒い日でした。偶然白衣掛けに忘れていた子のもあったので、その白衣も持ち帰り洗ったのです。父親と二人暮らしのB子さんは、小一の頃から炊事洗濯の手伝いをするしっかりした子です。忙しい大工の父親を助けるためです。持ち帰った白衣を洗濯機にかけましたが途中、用事を頼まれて脱水機に入れっぱなしにして干し忘れたのです。気がついたのは月曜の朝。仕方なくその生乾きの二つの白衣を袋に入れて持って来たのです。B子さんは経緯を二人に説明しましたが、「濡れていて気持ち悪い。」「余計な事をしてくれたので着ない」と言われたのです。しっかり者のB子さんは強情な所もあり友達から反発される事もありました。そうした日頃の線上でしか彼女を見られなかったのでしょう。根強い差別感、偏見に愕然としました。

私は、怒鳴りました。大声で、です。「濡れてるから着れない、もう一回言ってみなさい。」「どうして濡れてるのか知っているでしょう。洗ってもらって、お礼ひとつ言わないとは何事ですか。」クラスでは”優しさ、温かさ”を子供達に!と願って4月の学級開きの時「花さき山」(作:斎藤隆介、絵:滝平二郎)の絵本を読んで「こういうあや(主人公)のような子が好きなんだ。教室いっぱいに花を咲かせたいんだけどどうかな」と呼びかけていました。いい事をしたら花が咲くのです。教室の壁に黒いラシャ紙を貼り、色とりどりの花を咲かせていきました。1年かけて様々な花が咲きました。そんな矢先の2月です。

私は、改めてB子さんの家庭の境遇を素直に話しました。「花さき山」の花の質を高めることが出来るかどうかの真剣勝負です。クラスは静まりかえり涙ぐむ子もいました。「先生、B子に花。心のやさしい橙色の花がいいよ。」と誰かが言いました。また一輪の花が咲きました。こういう行為が自然に出来るB子。父子家庭でも逞しく人間らしさを培っていく彼女から学ぶところは大きいものがありました。このことを父親に話したそうです。すると「それでいいんだよ」と一言語ってくれたようです。こういう時期だからこそ、「花さき山」の花が全国どのクラスでもたくさん咲いてくれることを祈って。