ラボ訪問 寺坂 明子 講師

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来た船に乗る

教育協働学科 教育心理科学講座
寺坂 明子 講師

 「最初からこれだという道に出会えたわけではなく、ちょっとずつ寄り道しながら進んできました。でも振り返れば、結局すべてがいい具合に今につながっています」

 大学進学時は小学校教員をめざしていた寺坂明子講師。「当時は、学級崩壊やいじめ問題がメディアで頻繁に取り上げられた頃で、特に学校での子どもへの心理的な支援に興味がありました」。しかし、教育実習が転機になります。30人をこえるクラスで、全員に合った支援をしつつカリキュラムを進行していくのは難しいと実感。もっと心理学を勉強して、教員とは違う立場で子どもたちをサポートできないかと考えるようになります。

 九州大学大学院人間環境学府で臨床心理学を専攻し、博士課程まで進みます。博士課程では、大学へ行くのは週1回、あとは病院の精神科で働くという生活でした。そんな中、非常勤でスクールカウンセラーの仕事を始め、学校心理学をもっと学びたいと思い始めます。そこで博士課程3年生の時、日本よりも研究が盛んなカナダの大学に留学しました。

 留学先では、食事と睡眠の時間以外はずっと勉強という環境に驚きます。「人生で一番勉強した時期。授業の前は泣きながら勉強していました」と笑います。そこで学んだのは「子どものサポートをしようと思ったら、まず子どもの周りにいる大人をサポートしなければならない」ということ。特に専門とする小学校では、子どもが自身の状況を言葉で説明することが難しい場合が多く、子どもの抱える困難が学習や行動面に現れることで、相談に発展します。「スクールカウンセラーは、保護者や先生に対して子どもとの関わり方を助言するのが活動の中心。単に子どもと一対一で良い関係を築くのが目的ではありません」

 帰国後は博士論文を執筆しながら、神奈川県藤沢市の小学校で働き始めます。「実はスクールカウンセラーという言葉があまり好きじゃない。どうしても話を聞くというイメージが先行するのですが、あくまでもそれは一部。特に小学校の場合は、観察がベースです」。教室で子どもの行動を観察し、先生の働きかけへの反応、周囲とのやり取り、授業中の集中力などから、どのような支援があればもう少し生活しやすくなるのかを保護者や先生と考えます。その後家族の都合で再びカナダへ。東京での仕事を経て、本学へ着任します。

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 現在は、「子どもの怒り」や「学級における行動マネジメント」を研究しています。周りの皆に合わせられない、攻撃的な行動をしてしまう子どもたちが、どうすればよりよく生活できるのか。教育実習に行った学部生の時からずっと自身の中にあるテーマです。「怒りそのものは、人間として当然感じるべき大事な感情。重要なのは、それをどう表現するかです」。子どもの望ましくない行動を減らし、望ましい行動をどう強化するか。先生と子どもの相互作用に着目し、不適切な行動が起こりにくい環境や状況を整える方策を探っています。「こういったことは大学で教わるというよりは、皆現場に出てから経験で学んでいて、それが共有されていない。様々な事例を集めて学んでおけば、対応策のレパートリーが増やせます」。授業で学生にもっと知識を提供していきたいと意気込みます。

 好きな言葉は『来た船に乗る』。「めざすゴールとは違う行き先の船でも、とりあえず乗ってみる。時には降りてみたり、違う船に乗り換えたりしているうちに、気づけば行きたかった場所の近くにたどり着くこともあります。すぐに希望通りにならなくても悲観的にならず、期待を持って待つことも大切」。物事をしなやかに受け止め、状況に応じて考え行動する。その行動力、柔軟性、前向きさが、来た船を見逃さない、乗り遅れない秘訣かもしれません。

(2017年9月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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