日の当たりにくい場所にこそ支援を
教養学科 人間科学専攻 2005年3月卒
社会福祉士、スクールソーシャルワーカー
菅野 幸里さん
「日が当たりにくい、支援の難しいケースへアクセスしていきたい」。そう語るのは社会福祉士・スクールソーシャルワーカー(以下、SSW)の菅野幸里さん。
不登校、いじめ、暴力行為といった子どもの問題の背景には、子ども自身の性格などの「個人」の問題だけでなく、家庭・友人関係・地域・学校など、子どもの置かれている「環境」の問題があります。SSWとは、これらの「環境」にも働きかけて子どもの状態を改善していくために、学校や関連機関と連携して対応にあたる専門職のことです。
「ケースごとの対応だけでなく、学校の組織体制の中に入って様々な会議に出席することもあります。学校現場には児童虐待や貧困等、福祉分野との連携が必要なケースも多い」。自身を、子どもと先生、担任と管理職、学校と関係機関などを「繋ぐ人」だと表現します。「先生方と一緒に迷い、考え、調べ、失敗し、解決をめざしていく仕事です」。教員と協働していくことに最も重きを置いています。
現職に就くきっかけは、自身の家庭環境と、大学時代の出会いでした。「1つは、自分自身の生い立ちから、子どもは家庭環境に大きく影響されると気づいたこと。もう1つは、2人の障がい者と出会ったことです。ともに重度の脳性麻痺の方でしたが、社会との関わり方は真逆でした。1人は介護者と共に車いすで外出もする、食事やお風呂などなんでも自分がやりたいときやりたいことをするという生活をされていました。一方、在宅訪問活動で知り合った方は15年以上家から出たことがなく、農業を営むご高齢の両親が毎日介護をされていました。『外に行きましょう!』と自宅を訪ねてもご両親に断られ、会うまでに2年、前任者も含めると10年もかかりました」。
二人はなぜこんなにも生活が違うのかと疑問を抱きながら関わり続けるうちに、この違いは個人の特性ではなく、おかれている環境に起因するのではと思うようになりました。「例えば、外に出られない人の外出を妨げている要因を自分が取り除けたら、その人は外に出ていけるかもしれない。環境とは何かを突き詰めてみたら、自分自身も誰かの『環境』の1つだと気づきました」。この出会いと自身の子ども時代がリンクし、子どもの環境に携わる仕事がしたいと考えるようになります。卒業後、障がい者支援のNPOで働きながら社会福祉士の資格を取得し、SSWとして活動を始めます。
SSWになって7年目、迷いが生じてきたといいます。「子どもより先生からの相談に対応することのほうが多くなりました。子どもと関わる時間が少なくなっているのに、子どもについて助言していることに矛盾を覚えました」。そこでSSWの仕事を減らし、一般社団法人「こもれび」で、子どもの夜の居場所づくりなど新しい活動を始めます。「一番やりたかったのが、訪問型学習支援です。学校に行けない子、学校や関係機関だけでは支援の難しい子なども対象に、家に行って関係を築きながら、一緒に学習や目標探しをします」
こもれびでの取り組みは、SSWの仕事の中で「こういう資源があれば、こんな支援者がいたら」と思ったことを形にしています。「実際に子どもと関わって様々なケースに直接向き合いながら、SSWとしても活動する。そうすることで、SSWの活動もより説得力が生まれると感じています」。SSWとこもれびでの活動、どちらを失っても自分の中のバランスを保てなくなると言います。
学生時代は、介護や在宅訪問等のボランティア活動と部活動に明け暮れた菅野さん。「僕の一番好きな言葉は『当事者からの学び』。特に教師になる人は、背景も含めて子どものことを深く知り、そこから学ぶ姿勢を持ってほしい」と後輩にエールを送ります。
菅野さんが作曲したチャリティソングが、YouTubeで視聴できます。
https://www.youtube.com/channel/UC9B006K58ENk8Quy-kJKp0w
(2017年4月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。
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