好奇心に正直になる
教育協働学科 グローバル教育講座
井上 直子 准教授
「文学は心を形にするものだから、人間に心がある以上、文学は不滅だろうと思っています。経済効率に役立つかどうかではなく、それによって楽しくなる人がいる、豊かになる人がいる。そうやって幸せになることが、人間が生きていくのに一番役立つことじゃないでしょうか」と、井上直子准教授。
子どもの頃から本ならなんでも好き。家にある字が書いてあるものはかたっぱしから読んでいました。「当時流行っていた野球漫画が大好きで、ノートや教科書に絵を描いたり、外では草野球をしたりしていました。漫画にでてくる魔球の練習もしましたね」。黙々と興味のある事にまい進するタイプでした。
フランスとの出会いは、偶然でした。大学で中国哲学を勉強しようと思っていたのに、外国語の選択をうっかりフランス語にしてしまいます。「勉強してみるとすごく相性が良くて、初めて外国語に惹かれました」。言語だけでなく、フランス映画や音楽にも興味を持つようになります。中でもフランス文学の、論理的にテキストを読むところが性にあいました。一語一語を丹念にたどり、小説の構造をあぶりだしていくのは、主観的にどう思うかという感想を求められることの多い国語の授業とは違ったと言います。「大学の講義では、先生が専門としている作家の文章を読むのですが、先生方の解釈は切り口が鮮やか。金太郎飴を普通と違う角度で切ったような、こんな風に見えるんだという驚きがありました」。
学生時代の一番の思い出は、フランスへの留学です。「ホームシックにも全くならず、本当に楽しかった。奨学金をもらっていたので、日本にいるときのようにバイトに追われることもなく、自由に時間が使えました。伸び伸び暮らして、背も伸びたくらい」と笑います。
博士号を取得後、本学欧米言語文化講座(現グローバル教育講座)に着任します。専門とするフランス文学の中でもずっと興味をもっているのは「自分と世界との関係」について。「哲学者、小説家、画家など、いろんな人が世界と自分の関わりを論じています。彼らは、それぞれが友達だったとか、影響しあったというような直接的な繋がりがないにも関わらず、同じことを言っていたりします」。そういう事例を集め、同じ見方をする人が増えたり、意見が変化したりするのを時間を追って整理し、わかり易くまとめて紹介したいと意気込みます。
人前で話すのは好きではなく、授業は今でも緊張すると言います。「でも、知識を伝達するのは好き。最近ではフランス語検定の情報やフランス語のクイズなんかをTwitterで投稿しています」。数年前に、学生からSNSで情報発信をしてほしいと言われて始めました。「やってみたら意外に楽しい。匿名性が高く自分が隠れているのが好きだし、字を書くのも好き」と言いつつ、炎上したら止めると公言しています。
学生を見ていると、点数や評価を気にしている人が多いと感じます。「求められることに応えるのが勉強とか使命と思っている。だから何を求められているのか、答えを知りたがり、間違うことを過剰に恐れている」。そうではなく、もっと自分の好奇心に正直になってほしいと望みます。「そもそも答えなんてありません。言われたことだけをするのではなく、自分の思う通りに行動して、まだどこにもない答えを自分なりに見つけてほしい」
大阪出身の井上准教授。言葉の終わりに関西人特有の言い回し「知らんけど」が度々登場します。「私の言う『知らんけど』は、下手に断定して間違ったら恥ずかしいというのと、『私はあくまでこう考えているけど、人の思いは様々なので、あなたの考えは知りませんよ』という、フランス人の考え方と同じような意味と両方あります」。他人に左右されないが否定もしない、言動に責任を持てども気負わず自由。軽やかな佇まいが印象的でした。