「学校安全シンポジウム-子どもの安全をどう創りだすか」 学長あいさつ

「学校安全シンポジウム-子どもの安全をどう創りだすか」 学長あいさつ

平成16年6月8日
池田市民文化会館

 あの痛ましい附属池田小学校事件から3年を迎える今日ここに、大阪府教育委員会、大阪市教育委員会、池田市、池田市教育委員会との共催のもと、平成16年度の学校安全シンポジウムを開催する事ができました。開催にあたり、ご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝し、また、今日のご参会の皆様に心より御礼を申し上げます。

 事件後、本学では、事件が起きました6月8日を「学校安全の日」と定め、学校・保護者・地域社会の皆様とともに、学校安全に対する意識を高め、自覚を深める日とし、学校安全の向上のための各種事業を行うこととしてきました。本日の、学校安全シンポジウムも、このような取り組みの一つとして、池田市及び3教育委員会のご協力とご理解を得て、企画したものであります。

 本日のシンポジウムの開催にあたり、まず、事件後の本学の取り組みについて、ご報告しておきたいと思います。3年前のあの痛ましい事件は、我が国の社会に大きな衝撃と震撼を与えました。その被害は、あまりにも大きく、あまりにも悲惨でありました。事件関係者にとって、激しい心の痛みなしに事件を振り返ることが出来ない日々が、今なお続いています。

 犯人の侵入を許してしまった学校において、日頃からの学校安全や学校管理の取り組みはどうであったのか。大学における、附属学校の管理・監督はどうであったのか。教職員の対処や、事件直後からの大学や学校の対応は、適切であったのか。大学は、学校は、教師は、保護者の信頼に応え、その責務を果たしきったといえるのか。今もなお、重い問いとして数多くの関係者によって問われ続けています。

 大阪教育大学では、これらの問いかけに正面から応えるべく、冷静に事件を振り返り、大学や学校にどのような問題があったのか、あの事件の中で何が出来、何が出来なかったのかを明らかにし、その結果を、広く社会に伝えていくことが、大学の責務であり、また安全な学校を実現していくうえで、不可欠なことであると考えてきました。この作業は、今もなお、大学において続いております。

 このような中で、亡くなられた8名の児童のご家族の皆様との話し合いを重ね、事件を振り返りながら、事件についての認識を、被害者の皆様と共有する取り組みを進めました。事件から2年目を迎える昨年の6月、関係の皆様のご指摘も様々にいただきながら、大学及び学校としての反省点をまとめ、その内容をもって、国とともに亡くなられた8名の児童のご家族との間で合意書を交わし、謝罪を申し上げるとともに再発防止に取り組むことを、お約束いたしました。また、事件によって被害を受けた全ての児童と保護者の皆さんにも、同様の謝罪を申し上げるとともに再発防止に取り組むことを、お約束いたしました。併せて、大学と学校における責任の所在を、世に明らかにいたしました。

 省みて、あのような学校の危機は、突如として訪れたのではありませんでした。予兆があり、すでに警告が発せられていました。事件に先立つこと1年半、平成11年12月21日に、京都の伏見区にあります市立日野小学校において、外部からの侵入者によって、運動場にいた2年生の児童が、刃物によって殺傷されるという、痛ましい事件が起こっておりました。この事件を受けて、文部省からは、全国の教育委員会、都道府県知事、附属学校を置く国立大学長に向けて、児童の安全確保と学校の安全管理を再点検し、必要な措置・方策を講じるよう、通知がなされていました。

 大阪教育大学では、また附属池田小学校では、この事件を、この通知を、児童に迫り来る危機があることを告げるアラート(緊急警報)と読みとれず、見過ごしてしまっていました。また、それ故に、外部からの侵入者に対する学校安全や危機管理に対する備えがなされていませんでした。事件は防ぎ得たのではないか。被害の拡大は防ぎ得たのではないか。重い重い問いかけが、今もなお残ります。学校設置者の、学校管理者の、また一人一人の子どもたちの安全をあずかる教師の、心のすき、心の緩みは、決して繰り返されてはなりません。事件から3年目を迎え、本学ではこの自覚を新たにするともに、広く学校関係者に対して、このことを強く訴えたいと思います。

 本学では、事件10ヶ月後の平成14年4月に、学外の有識者の協力を得て、「国立大学附属学校の安全管理の在り方に関する調査研究会」を設置し、事件の内容と経過を踏まえつつ、これからの附属学校における児童の安全確保の在り方について、1年半にわたる検討を進めました。その結果を、報告書と2つのモデル・マニュアルにまとめ、昨年12月16日に公表いたしました。こんにち、全国に260校近くある国立大学の附属学校における安全管理や危機管理への備えは、これらの報告書やモデル・マニュアルが、拠り所になっております。報告書の概要については、本日のプログラムの中で、調査研究会の主査をつとめた本学教授・安井義和より報告させていただくこととしております。

 昨年の8ご家族との合意書の締結以降、本学では、改めて学校安全の向上に全学で取り組むための体制を整え、再発防止に関わる様々な取り組み進めてまいりました。学校安全担当学長補佐の設置、学校安全プロジェクトチームの設置、学生、教職員のための10数回にわたる救命講習会の実施、附属学校施設の防犯診断の実施、学校の安全管理の強化、全学的なIDカードの着用の徹底、等々であります。また、この春からは、全学共通科目「学校と安全」の開講、学校安全教育推進委員会の設置、各附属学校への学校安全主任、学校安全管理委員会の設置、学校安全主任講習会の実施、等々に取り組んできております。

 昨年の8ご家族との間で取り交わした合意書と、これに添付された別紙「事件の概要」は、国の手によって、広く全国の教育委員会、学校、関係機関に流布され、あらためて附属池田小学校事件とは、どういう事件であったのかを、社会全体が共有する大きな契機となりました。これ以降、国においても、また全国の教育委員会や学校においても、児童の安全確保と学校の安全管理・危機管理への取り組みが、より一段と真剣なものとなり具体性を帯びたものになって来ました。今年の1月20日には、文部科学省は、「今、子どもの安全が脅かされている!」として、全国民に向けて「学校安全緊急アピールー子どもの安全を守るためにー」を発出(ほっしゅつ)しました。

 子どもたちが、子どもたちであるが故に、危険にさらされる。学校が、学校であるが故に、危険にさらされる。この社会の現実を、直視しなければ、子どもたちを守ることは出来ません。また、子どもの安全確保は、大人たちの自覚と責任を大きな拠り所にしつつも、一つのサイエンス、一つのテクノロジーにまで高めていかなければなりません。   

 本学では、本日11時より、附属池田小学校において、多数の関係者の臨席のもと、亡くなった8名の児童のご家族に皆さん、13名の負傷児童の保護者の皆様とともに、事件のモニュメントである「祈りと誓いの塔」の除幕式を執り行いました。子どもたちの安全、学校の安全を考えるとき、附属池田小学校事件は、末永くその原点であり続けなければなりません。本日のシンポジウムが、子どもたちの安全確保と学校の安全管理・危機管理の向上に、具体的で実効性のある新たな前進、新たな成果をもたらすことを心から願って、開催にあたってのご挨拶といたします。

 大阪教育大学長 稲垣 卓

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