ラボ訪問 小川 剛司 准教授

撮影に応じる小川准教授

人体と呼吸のメカニズムの美しさに魅入られて

表現活動教育系(保健体育部門)
小川 剛司 准教授

 「小学校5~6年生の担任の先生が、課題発見型の授業を実践されていて、授業では、仮説、目的、方法、結果、考察を、実験を通してやり続けていた。当時の学びが、今の自分の、実験を通して行う科学的思考の一番の根幹だと思います。そして、その小学校での学びと、中学・高校でのめり込んだ陸上部での経験が、今の自分の基礎を作っています」と小川准教授は話します。

 その後、中高の体育の教員をめざし、かつ自らの陸上の競技力向上を志し、筑波大学に進学します。「周りの学生は日本代表選手ばかりで、陸上の競技力については諦め、『学をつけるしかない』と思い修士課程に進みました。運動生理学研究室に入って、高所トレーニングの研究を行う過程で、高所での体の反応に興味を持ちました。そこからは、実験と研究に明け暮れましたね」

 修士課程修了後、1年間だけ高校の体育教師として教壇に立ち、博士課程へ。その後、准教授として私立大学に勤めたのち、本学へ赴任します。

学生と運動生理学の研究をする小川准教授

 現在の研究を伺うと、「運動生理学」、特に「環境生理学」「呼吸生理学」と呼ばれる分野の研究に取り組んでいるのだと言います。「低酸素状態、高所での運動時の生理的応答の研究ということで、高所トレーニングや、登山中の人体に起こる得る危険なこと、特に呼吸調節に関する研究を続けています。また、陸上競技に関する生理的応答や、トレーニングに関する呼吸の研究も進めています」

 最初に人体と呼吸のメカニズムに魅力を感じたときのことを伺うと、「動脈血中の酸素の量に対して、血中のヘモグロビンが、酸素をどれだけ掴んでいるかを示した図である『ヘモグロビン酸素解離曲線』のS字曲線を見たときです」と即答します。「血中であれば、酸素が少し減った程度では、ヘモグロビンは、なかなか酸素を離さない。しかし、大気中よりも酸素が少ない筋肉組織の中では、僅かでも酸素が少なくなると、ヘモグロビンはすぐ酸素を離す。よって、筋肉組織内では、ヘモグロビンは血中にいるときよりも早く酸素を供給する(離す)、という特性がその曲線から見えてきます。なおかつ、運動中では、酸素をより離しやすくなるように調節されていくんです。この曲線を見て、メカニズムを理解したときに『人の身体は美しい』、と感じました」と目を輝かせながら、熱く語ります。

 「人の身体の反応自体は、仕組みで成り立っていて、呼吸の制御もそうなんです。『何で運動すると呼吸が荒くなるのか』を考えたとき、普通、人は『苦しいから』『酸素を摂りたいから』と考える。でも、生理的には運動している、という情報や、血液中の成分が変わったという情報が、呼吸中枢に伝わり、呼吸を高めるという、運動に適した酸素を摂るために、理に適った仕組みになっているだけなんです。『苦しいから』『酸素を摂りたい』のような人の表面上の思考だけが原因で、呼吸が荒くなっているわけではないんです。そういう考えを持ったままだと、間違ったトレーニングや対応をしてしまいます。人の身体の反応のメカニズムを追う。それが本当に面白いんです」

学生と人体の反応のメカニズムを研究する小川准教授

 今後もひたすら研究を続けていきたいと言う小川准教授には、研究でも陸上でも「まあ、いっか」という口癖があるようです。「自分のやるべきことや、十分な努力をしたのに、思うような結果が出なかったとき。それは間違えた努力をしただけ。実験でも同じ。原因を考えて改善することは重要だけど、心情的に考えても意味がないので、研究でも陸上でも『まあ、いっか』が口癖。原因究明とへこむのは違って、全く別問題、切り離して考えて、次に進んでいます」。そう語る小川准教授の身体には、探究への熱意と陸上への愛が、絶え間なく循環しています。

「TenYou ―天遊―」vol.54インタビュー&メイキングムービー

(2021年5月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

最新記事一覧はこちら

バックナンバーはこちら