附属池田小学校事件の今後に向けて

附属池田小学校事件の今後に向けて

平成14年8月20日

 池田小学校事件から1年を迎え、平成14年6月10日より学長を務めることになりました。就任以来、事件で亡くなられた8名の児童のご遺族や、負傷された13名の児童の保護者の皆様と接する中で、改めてこの事件で失われたもの、損なわれたものの大きさを実感いたします。家族の慈愛に包まれ、輝く未来に向かって成長の直中にいた児童たちの姿を思い浮かべるとき、最も安全であるべき学びの場・育ちの場である学校で、児童の命を守ることができなかった責任、児童の身の安全を確保できなかった責任を痛感せざるを得ません。ご遺族にいまなおつのる癒されがたい落胆と怒り、保護者が抱かれる児童の今後の成長や日々の学校生活への不安は、しっかりと受け止めていきたいと思います。

 なぜこのようことが起きたのか、なぜ防ぐことが出来なかったのか、なぜ被害をより少なくすることができなかったのか。我々は答えていかなければなりません。また、二度とこのようなことが起きない社会をつくり、二度とこのようなことの起きない学校にしていくことを、亡くなった児童たちと傷ついた児童たちの前に固く誓い、我々大人たちがそれを実現し、後世に伝えていかなければなりません。

 この事件は、我が国における学校安全についてのこれまでの考え方を根本から打ち砕くものでした。学校の安全管理に何が欠けていたのでしょうか。我々は何を見過ごしていたのでしょうか。文部科学省では、学校施設の専門家、安全警備の専門家、学校現場関係者、有識者の協力を得て、「学校施設の安全管理に関する調査研究協力者会議」を設置し、これからの学校安全の確保に向けて、施設面での諸方策についての提言をまとめつつあります。また、本学では「国立大学附属学校における安全管理の在り方に関する調査研究会」を発足させ、附属学校に固有の安全管理の在り方について、安全管理マニュアルの作成をめざした専門的な調査研究を開始しています。これらの取り組みが、我が国における学校安全の大きな指針となり、園児・児童・生徒の安全確保の具体化につながることを願ってやみません。

 事件の残したものには深いものがあります。本学は、これからもご遺族や保護者の皆さんと共に歩むつもりです。また、事件に関わらざるを得なかった多くの幼い児童の今後の成長を支え、その行く末をしっかりと見守り続けていきたいと考えています。日々の生活や学校生活の様々なサポートをとおして、事件のもたらしたものを共に分かち合い、学校の再生を果たしていく決意でいます。そのための一つの手だてとして、これまでのメンタルサポート活動をもとに「学校危機メンタルサポートセンター」の開設を計画しています。

 この事件とその後の経過は、今後も社会と共有していかなければなりません。このためには、学校の危機管理の必要性・重要性を広く社会に発信していく必要があります。日本の学校教育の向上、教員の育成、教員の資質向上に責任を負う大学としての自覚に立って、これからも事件が残した多くの課題に立ち向かっていきたいと考えています。各方面からの変わらぬご支援とご協力をお願いいたします。

 大阪教育大学長 稲垣 卓

→最新のメッセージへ