一人ひとりの子どもに適した支援を
総合教育系(教育心理科学部門)
高橋 味央 特任講師
現在の研究内容は?
A.主なテーマは「教育をめぐる排除と包摂」と「教育と福祉の協働」です。学校教育というのは、すべての子どもが等しく学べる場としてはすごく魅力的ですが、 一方で貧困状態にあったり虐待を受けていたりするなど、社会的に不利な立場にある子どもたちは、学校生活や教育システムから早期に離脱してしまう傾向にあるということが指摘されています。そこで、排除を防ぐ包摂的な教育とはどういうものなのか、そのために教育と福祉がどのように協働していけばよいのかについて、主としてフィールドワークの方法を用いて研究をしています。
スクールソーシャルワーカーもされているんですか?
A.修士課程を修了してから始めて、現在も続けています。スクールソーシャルワーカーという仕事は、学校や家庭の中で困り感を抱えている子どもに対して、学校の先生や地域の方々と協働して何ができるのかを一緒に考えていく専門職です。学校の先生は学級の中ですべての子どもに等しく接することが教育の適切な在り方だと感じている人が多く、それは教師文化の特徴の一つだといわれていますが、ソーシャルワーカーは個別化という価値・理念のもと、一人ひとりの背景や思いを大切に、その子に応じた支援を行うというところに専門性があります。その点で先生方と考え方や方針に相違が生まれることもありますが、子どもの最善の利益を図るためにどうすればよいのか、多様な視点からより良い支援を検討していくというそのプロセスに魅力を感じています。
大阪教育大学で研究者になった経緯は?
A.ソーシャルワークというのは実践の科学であると思っています。目の前に支援の対象者がいるという特徴を持つ学問なので、研究で得た知見を実践に生かす必要があり、それと同時に実践の中から学ぶということも意識してきました。そんな中で、もう少し研究を深めたい、次の世代のソーシャルワーカーを育てたいという思いが強まって研究者の道を選びました。大阪教育大学の教育協働学科は、さまざまな分野が融合してできている学際的な学科だと思っています。社会福祉学を学んでソーシャルワーカーになり、その後心理学を経由して教育社会学を学ぶという、異分野を渡り歩いてきた自分の経験が生かせると思い、現在大阪教育大学で研究しています。
本学の学生の印象は?
A.真面目で基本的に学ぶことが好きな学生が多いなと感じます。私が伝えたことに対して、自分の経験と照らし合わせ、何かひっかかりを持って考えてくれることが多いです。さらに、「違う場所ではこういう話を聞いたが、今日聞いた話とはどのようにリンクするのか」と、一つの学びから発展的に物事を捉えようとする学生が多くいることが印象的です。
先生自身はどのような学生でしたか?
A.社会福祉学やソーシャルワークという学問がなんとなく面白いなとは思っていましたが、正直なところ、学部1、2回生のときはアルバイトに熱中していました。しかし3回生になって「トラウマ支援をソーシャルワークの視点から考える」というゼミに所属してから、学問の面白さに目覚めました。ゼミの先生と出会ったことで学ぶ楽しさを知り、自分がめざしていた対人援助の形がここにあるなとすごく感じたので、そこからは積極的に学ぶ学生に変わっていきました。学生にも、大学で自分の興味関心を学術的に深めていく過程を大切にして、これまでとは少し違う学ぶ楽しさを実感してほしいと思っています。
ゼミの活動は?
A.貧困や虐待、いじめや不登校など、子どもを取り巻く社会課題の現状とメカニズムについて、社会福祉学や教育社会学の視点から学びを深めています。文献を講読して理論的・学術的な知見を得るとともに、地域組織や学校・教育委員会、児童相談所などでのフィールドワークをとおして体験的に学び、理論と実践を往還しながら、子どもに対するよりよい支援と教育のあり方について検討しています。
(2024年6月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。
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