授業探訪 倫理学基礎演習

学生たちと討論する倉本香教授

倫理学基礎演習

社会科教育講座 倉本 香 教授

 倉本先生の研究室。中央に置かれたテーブルとそれ以上に年季の入った深緑のモケット生地のソファに学生たちが自由に着席するとアットホームな雰囲気で授業が始まりました。。「授業は各自が興味のあるテーマに関連する本を選んで発表する形ですが、少しサポートする場合もあります。

 「人間らしさとは何か?」というテーマで今日の最初に発表した学生は、AIに興味があるということで難しい論文ではなくSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を紹介しました。基礎演習なので卒業論文を書くための準備のような授業で、毎回二人が発表し、全員で討論をします」。有意義な討論になるように、発表者にはレジュメを事前に提出させ指導を行い、そのうえで参加者全員に当日のレジュメをあらかじめ読んできてもらうようにしているとのこと。授業内では、前提条件をきちんと共有し理解したうえで活発な討論ができるよう必要に応じて先生が適宜解説を行います。

意見を述べる学生たち

 発表の後の議論では、人間とAIの違い、動物との違いは、逆にAIとは何かなど視点を変えながら意見が交わされ、倉本先生はところどころに議論の風向きの軌道修正やヒントの香りを自然な助言で学生たちへ散りばめます。「学生には、たとえ突飛な意見であったとしても思考実験として意識して発言するようにと伝えています。

 また、そもそも哲学・倫理学は固くて難しい研究というイメージがあるので、実際のところは卒論の技術的な指導よりも、哲学・倫理学の議論に対して心のバリアを取り除き、議論したら意外と面白いことをわかってもらうことに重点を置いています。そうしていくうちに、粘り強く考え、抽象的に物事をとらえ、多面的・多角的に考えられる力を身に付けてほしいと思っています。問いの立て方、議論の進め方の理解も重要です。また、批判する力もとても大事です。ただ、学生同士で議論を戦わせるのは慣れるまでは少し難しそうです。大切なのは前向きな批判、議論のための批判。その意義を理解して豊かな時間にして欲しいのです。」

 学生の発表は続きます。ニーチェを題材にした二人目の発表では、「生の肯定」についての議論から、様々な個性や可能性を持つはずの生徒に画一的な教育を施すことはどうなのか、また、もしも教師のあり方にニーチェの言う「超人」の思想が許容されたならどんな学校になるだろうか?「新しい価値の創造」を自由に作り出せる教育の必要性や、すでに試みられている新しい枠組みの学校について話題が及ぶなど、学校教育制度における新たな価値の創造を目指そうとする教員養成大学の学生ならではの議論へと自然に展開していきました。

撮影に応じる倉本香教授

 学生たちが選んだテーマはほかには、「心と体は一体化するか」、「アドラー心理学から教育を考える」、「何のために生きるのか?レヴィナスの享受論から」、「功利主義をより洗練させる」等々、哲学・倫理学にまつわるストレートなテーマもあれば、教育に関連するテーマも。学生たちは、この授業で引き続き様々なテーマ発表を経験し、自由に思考を巡らせながら考えることの楽しさを味わい、試行錯誤しながら卒論の題材を模索します。

【授業DATA】

対象学年 :学部3回生
主な対象学生:学校教育教員養成課程社会科教育コース
開講期:2019年度前期 木曜2限

(2019年6月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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