負傷児童の保護者との合意書締結について

平成17年5月8日(日)に大阪教育大学及び附属池田小学校は、附属池田小学校事件で重傷を負われた8人の児童及びその保護者の代理人の皆さんと次の合意書を締結しました。

合意書(PDF版/11KB)

大阪教育大学教育学部附属池田小学校事件
負傷者合意書

前文


 学校は、子どもたちが保護者から離れて学習する場であり、本来最も安全な場でなければならない。「開かれた学校」の視点は重要であるが、それを意識するあまり「安全な学校」という大前提が蔑ろにされることがあってはならない。
 平成11年12月の京都市立日野小学校で発生した児童刺殺事件後の平成12年1月において、文部科学省(当時の文部省)は、附属学校を置く国立大学長に対し、安全管理に関する通知を発出したが、その通知後においても、平成12年1月の和歌山県かつらぎ町立妙寺中学校における不審者の校内侵入による生徒殺人未遂事件などが発生していた中で、通知の内容を見直すことなく、また、附属学校を設置管理する文部科学省および大阪教育大学では、各附属学校の安全措置の状況を把握したり、特段の財政措置を講じたりしていなかった。さらに、大阪教育大学教育学部附属池田小学校(現大阪教育大学附属池田小学校。以下、「附属池田小学校」という)においては、先の通知に関して、教職員に対して一度口頭で伝えたにとどまり、それ以外の格別の対応をとっておらず、大阪教育大学教育学部附属池田小学校事件(以下、「本件事件」という)当日においても、不審者に対して教職員の十分な対応がなされていなかった。
 このような状況の下、本件事件において、8人の幼い児童(以下、「本件負傷児童」という)が心身ともに深い傷を負ったことは、痛恨の極みである。国立大学法人大阪教育大学(以下、「大阪教育大学」という)および附属池田小学校はその責任を深く自覚する。
 大阪教育大学および附属池田小学校は本件負傷児童に対し、本件事件について真摯に謝罪し、このような事件が再発しないよう万全を期し、実効性ある安全対策をとることを誓う。
 本件負傷児童は、PTSD等の後遺障害により、通学・授業への参加等日常生活への適応困難に今日もなお苦しむものである。本件負傷児童の家族は当該負傷児童のPTSD等による生活適応困難に対し、医療機関による治療に加え、本件事件発生以後、学校生活および家庭生活において本件負傷児童が本来の能力を回復・発現しうるよう、継続して、最大限の努力を払ってきたが、一家族の努力には限界がある。
 大阪教育大学および附属池田小学校は、かかる本件負傷児童をとりまく現状を認識・理解し、学校危機メンタルサポートセンターの専門家等の助言を尊重しながら、教育環境を改善し、適切な学校運営を行うことを約束する。
 以上の趣旨において、大阪教育大学および附属池田小学校は、本件負傷児童およびその親権者との間で、平成17年5月8日付で、以下のとおり合意した(以下、「本合意」という)。


第1条 謝罪

大阪教育大学および附属池田小学校は、本件負傷児童およびその家族に対し、不審者の侵入防止対策等が徹底されなかった結果、安全であるべきはずの同小学校内で本件事件が発生したことを真摯に反省し、衷心より謝罪する。



第2条 損害賠償

大阪教育大学は本件負傷児童および親権者に対し、本件事件において、附属池田小学校の安全管理が十分ではなかったことによる損害賠償金の支払義務を認め、本合意に基づき、具体的な賠償金額を定めた個別合意を別途締結するとともに、本合意および個別合意に定めるもののほか、本件事件について、何らの債権債務がないことを相互に確認する。



第3条 再発防止策

1 大阪教育大学

(1)大阪教育大学は、全教職員の危機対応能力の向上を図るとともに、教員養成機関として、学校安全に関する実践的な教育・研究を充実し、適切な危機管理や危機対応を行える教員を養成する。

(2)大阪教育大学は、附属学校園における安全管理の状況について、定期的な実態調査を実施し、点検・改善を継続して行い、事件・事故の未然防止を図る。

(3)大阪教育大学は、学校危機メンタルサポートセンターの機能を充実させる。

2 附属池田小学校

(1)附属池田小学校は、児童の学校生活上の安全保障を徹底するため、不審者対応訓練を定期的に実施する等、外部からの不審者を容易に侵入させることのないような措置を講じ、PTAと連携し、登下校時や放課後の安全確保についても努める。

(2)附属池田小学校は、警察、消防、池田市をはじめとする近隣の自治体と連携し、児童の安全対策の推進に努めるとともに、実効性のある危機管理マニュアルを作成し、これを実施する。

(3)附属池田小学校は、引き続き毎月8日「安全の日」において、上記危機管理マニュアルの内容が確実に実施されているかにつき、責任を持って点検し、随時必要に応じた改訂を行う。

(4)附属池田小学校は、「命の大切さ」を感じとる教育内容の研究をさらに推進し、道徳・総合的な学習の時間等において、個々の児童が安全な社会の担い手となる教育に努める。



第4条 学習環境における配慮

1 学校生活

   大阪教育大学および附属池田小学校は、本件負傷児童が他の児童と同様の学校生活を送れるよう、本件負傷児童のメンタルサポート面について十分に配慮した学校運営を行い、逐次検証を行い、必要に応じて改善する。

2 学習能力の発揮

   大阪教育大学および附属池田小学校は、本件負傷児童が本来の学習能力を発揮できるよう学習環境を整備し、他の児童に比して特別の不利益を被らないため、適切な措置を講じるよう最大限努める。