物理科学基礎
理数情報講座 辻岡 強 教授
「学生たちで賑やかな講義前の教室。理数情報講座・辻岡強教授が慣れた様子で授業の準備を整えます。脚立の上に電磁石で細工されたT字の吊り下げ器具、羽とマグネットが入った真空デシケータにポンプ、それから小さい猿のぬいぐるみを脇に添えました。「前回は重力のもとでの運動についてでした。今日は、この典型的な応用問題、モンキーハンティングについて…」教室の空気はにわかに引き締まり講義がはじまりました。
「猿が木にぶら下がっている。猟師が猿を狙っている。銃の引き金を引くと同時に猿が危険を察知して手を放し下に落ち始める。さあ、弾は当たるか当たらないか?弾は銃から離れた瞬間に重力がかかり軌道がずれていく。同時に手を離した猿と発射された弾の相対的な墜落距離は同じになり、最終的に弾は猿に当たるという課題です。これが物理的にどのような数式で表されるか、まず座標系をとって…」。軽快にチョークの音が響き黒板が数式で埋まっていきます。「猿の最初の高さはH、そこから時間TLだけ経過した…TLに先に求めた数値を入れると…。さあ、これとこれは一緒。これで弾が命中するということが言える。では実際に実験してみよう。手伝ってくれる人!」
黒板の数式を見つめていた学生たちの真剣な表情が再び和らぎ実験に移ります。代表の学生が狙う先のお猿のぬいぐるみにうまく当たると拍手。外れると落胆の声が漏れました。「当たらないのはズレができる要因があるせい。前回スポンジボールとゴルフボールを落とす実験をしました。落下時間に差ができる要因は空気の存在からくる摩擦力。現実の世界では摩擦が一番大きい」。この後、斜面を滑り落ちる場合の物体に作用する力などを運動方程式で説明したり、アポロ15号が月で行った真空中の落下実験を真空デシケータ内で演示するなど授業が展開していきました。
「この授業は1年生対象で、物理の体系でいうと他にも熱力学、電磁気学、量子論などもあり、この「物理科学基礎」はそれらの前半部分。後期開講の「物理科学概説」が前期の続きとなり物理の体系全体を理解するという形です。つまりこの授業は物理の素養のようなもので、このような基礎と概説の講義が物理、化学、生物、地学それぞれにあり、自然科学の学生はほぼすべてを受講することになり、そうして自然科学の全体を知りそれを土台にして2回生3回生で専門を深めていきます。学生たちによく言うのですが、最初から自分の専門分野を狭くとらえず幅広く勉強してほしい。発展している分野は様々な知識を融合させた分野です。
物理で1回生2回生が学ぶものは所詮100年前の知識でしかないのです。幅広い知識を土台にしてそこから先に行くため自分の可能性を見つけて欲しいのです。実際、私の研究室では物理と化学の融合領域を行っていますし、幅広い学びは逆に狭い分野で研究を進めるうえで役に立つことにもなります」。
ひきつづき辻岡教授の授業「物理科学基礎」は1回生に自然科学の芽を育むきっかけとなる基礎を伝えてゆきます。今回の実験で使用したお猿のぬいぐるみはサキチという名前がついているそうです。弾に見立てたボールにあたったり上手によけたりしながら数式の証明と現実での誤差という両方の事実を学生たちに伝える役割を終えたサキチはどことなく満足げに見えました。
【授業DATA】
対象学年 :主に学部1回生
主な対象学生:教育協働学科 理数情報専攻 自然科学コース
開講期:2019年度前期 木曜3限