卒業生CATCH! ファム・トゥー・フオンさん カオ・レ・ユン・チーさん

インタビューに応じるカオ・レ・ユン・チーさん、ファム・トゥー・フオンさん

ベトナムと日本の架け橋として

ホーチミン市師範大学 日本語学部学部長
カオ・レ・ユン・チーさん

ハノイ大学 日本語学部副学部長
ファム・トゥー・フオンさん

 日本語・日本文化研究留学生として,ベトナムから本学に留学していたファム・トゥー・フオンさん(1997年~1998年)とカオ・レ・ユン・チーさん(2001年~2002年)が2014年11月に本学を訪問された際にインタビューしました。

 ――久々の母校はいかがですか。

 フオン チー先生は12年ぶり,わたしは17年ぶりに足を踏み入れましたが,キャンパスの雰囲気もずいぶん様変わりしていて,懐かしい気持ちと新鮮な気持ちの両方が胸にこみ上げてきます。

 チー でも,お世話になった先生方は変わらず優しく,当時に戻ったようです。

 ―役職名から管理業務が主体のように思えますが,現在のお仕事内容は?

 フオン 副学部長といってもメインは授業です。現在日本語学部の学生は約1000人いますが,個々の学生のサポートもしています。もちろん管理業務もありますが,学生と直に接する仕事が多いですね。

 チー わたしも授業がメインで,週にして約15コマ程。本学では日本語学部の学生が約650人,第二外国語として学んでいる学生が約250人,あわせて約900人ですが,受け持っている学生の顔は全員把握していますし,進学や就職などのキャリア相談にも応じています。

 ―日本語学部ではどのような授業を?

 フオン 現在ベトナムに拠点を置く日系企業は1000社以上にのぼり,今後,日本語学習の需要はいっそう高まっていくように思いますが,民間の日本語スクールとは違い,語学の習得だけでなく,高度な人材を開発することが高等教育機関の役割です。日本の文化や歴史を学び,日本への知識や理解を深めるとともに,ベトナムと比較考察して自国の良さも再認識させています。

 チー 本学では,日本人の企業研修コンサルタントを招き,「ビジネス研修による異文化コミュニケーション」という新しい授業を導入しました。ビジネスでの仮想場面を設定し,会議時間に遅れたとき的確に理由を報告できるか,客に商品を勧めるときにどう説明するかなど,口語表現を使っていかに流暢なコミュニケーションができるかを重視しています。わたし自身の経験上,どんなに読み書きが優れていても,生きた日本語を話せなくてはその価値も半減してしまいますから,卒業後のキャリア形成も考えた実践的な演習を展開しています。

日本で授業を行うファム・トゥー・フオンさん

 ―留学生時代の思い出を聞かせてください。

 フオン 文部科学省から奨学金をいただいて,日研生として来日した当時,わたしは20歳でした。初めての海外,それも日本のような先進国に行けるとあって胸を弾ませましたが,来日してギャップを痛感しました。まさかキャンパスが山の上にあるなんて…。それは冗談としても,社会生活の意識ベースがまったく違いました。いろいろありますが,やはり時間に対する意識の差が一番ですね。ベトナムは遅刻しても自分も相手もあまり気にしませんが,日本では非常識とみなされますし,人だけでなく,1分刻みでち密に計算された電車のダイヤにもカルチャーショックを受けました。そんなことがありつつも日本の生活に溶け込み,大阪教育大学で日本人をはじめ様々な国の友人ができました。それに,「就活」も経験しましたよ。日本企業の現場で働いた経験は教壇で発揮されています。日本に滞在していたのはほんの数年間ですが,いつまでも色あせない,すばらしい思い出です。

 チー わたしも日研生として留学したのはほんの1年ですが,人生の中でも指折りの幸せな時でした。神尾暢子先生(現名誉教授)や長谷川ユリ先生(国際センター教授)のご指導のおかげで,日本語も上達しましたし,当時から現在に至るまで,先生方とのお付き合いは続いています。学部長として,いろんな人にアドバイスや指導をしていますが,立場上,わたしが疲れた時や困った時には弱音を吐ける相手がいません。そんなとき,神尾先生や長谷川先生に,「先生教えて,困っています」と助言を求めています。先生方はいつまでも,わたしの先生なのです。

 ―神尾先生との間で心に残るエピソードがあるそうですね。

 チー 大阪教育大学に初めて来た日,先生からりんごをひとついただきました。そのときは「なぜりんごをくれたのかしら」と不思議に思いましたが,なんだかとても温かい気持ちになりました。一つのりんごからお互いの信頼関係ができたようで,言葉が通じなくとも関係は構築できるのだと感じました。今は先生を真似て,わたしも日本人留学生に果物を贈っています。

 ―大阪教育大学はベトナムの留学生にどんな魅力をアピールするべきでしょうか?

 フオン 先生方が親身になって指導してくださいますし,日本人学生やほかの留学生もとても親切です。それに閑静な場所で勉強に集中でき,学校が終われば賑やかな繁華街に繰り出せる環境の良さも魅力ですね。実際に留学した人の口コミやアドバイスは学生にとって何よりも心強いですから,わたしも大教大OGとして貢献していきます。

 チー これまでのように指導してもらえればそれで十分ですが,可能であれば,交換留学後,院生として戻って来られるプログラムがあれば,さらに留学希望者は増えると思います。

日本で授業を行うカオ・レ・ユン・チーさん

 ―お二人の大学のアピールポイントは?

 フオン 日本語学部のほかにもさまざまな外国語学部があり,国際色豊かです。それぞれの学部の友人をつくれますから,大学で異文化交流ができます。ベトナムという国についても,本やテレビで多少は接していると思いますが,実際に肌で感じ,観察することできっと好きになってくれると思います。アクセス面でも,都心からは少し離れていますが,バスなど利用すればとても過ごしやすいですよ。

 チー 本学の日本語実習生の短期プログラムの中で,特に力を入れているのが「社会見学」です。テーマを選び,お寺や料理などベトナムの文化について,ベトナム人学生たちとグループに分かれて,現地の人へインタビューをしたり,写真撮影をしたりして,レポートにまとめるといったものです。参加した日本人留学生の中には,次の年に1年間の留学を決めた人もいます。どこかに行って,食べて,買って,ではただの観光です。現地の人とコミュニケーションし,ホームステイをして,現地の人の生活を体験することで交流が生まれるのです。

 ―ベトナムと日本の懸け橋として,お二人の展望を聞かせてください。

 フオン 交換留学の体制を強化して,本学の学生と大阪教育大学の学生とが継続的に行き来できるように,双方の学生に一生懸命アピールしていきたい。これは,元留学生としてのわたしの使命でもあります。

 チー 大阪教育大学の先生からは,物だけでなく知識や愛情など,いろんなものを与えていただきました。どうやったら恩返しできるだろうと考えた結果,自分の学生にも当時のわたしと同じ,幸せな環境をつくってあげることだと思い至りました。そうやって,ベトナムと日本の新たな架け橋となる,次の世代を育成することで恩返しできたらと思います。

(2014年11月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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