授業探訪 教育心理科学プロジェクト演習

芸術表現講座のディスカッションの様子

教育心理科学プロジェクト演習A

教育心理科学講座 安達 智子 准教授

 会議テーブル状に机を集め、ぐるりと着席した学生らは各自ノートパソコンで、授業管理システム(Moodle)で事前に共有されたデータ資料を見る準備をしています。机上には個性豊かな学校案内のデザイン案が8つ広げられました。

 「教育心理科学プロジェクト演習A」、教育心理科学講座の安達智子准教授のゼミ。今日は、芸術表現講座芸術専攻美術・書道コースのデザインゼミ生8人が加わりいつもより賑やか。大阪府立八尾翠翔高校から委託されデザインゼミ生が制作した「2019年度学校案内」のデザイン案を題材に、安達ゼミ生が調査・分析した結果を報告し、双方でディスカッションするという領域横断型のセッションが始まりました。安達准教授と、デザインゼミ担当で芸術表現講座の江藤亮准教授はオブザーバーとして様子を見守ります。

デザイン案について話し合う学生たち

 「八尾翠翔高校生304名と本学学生120名にアンケート調査を実施、質問紙の作成では心理学実験になじまない内容を省き、各ポスター制作者の意図や狙いの観点を項目に組み入れました。分散分析、t検定、重回帰分析などの分析手法を用い、入学したいと思う魅力的なパンフレットはどういうものかを、明るさや利便性などの観点から分析した結果を報告します」。安達ゼミ生が概要説明とぞれぞれの分析結果を報告し、ディスカッションへ進みました。

 「報告からすると枠などで囲ったデザイン案に利便性が高い結果が出たということですか?」学生同士のディスカッションが落ち着くと、江藤先生がおもむろに質問しました。「デザインの世界では、情報のグループを構築するため、文字間や行間といった『余白』をどうデザインするかが肝要です。言葉でいうと時間的な『間』。話し方がうまい人には『間』がある。デザインに慣れてない人ほど余白を恐がり、そこに図形や罫線を入れてしまいがちですが、結果的に視覚的なメリハリに欠け、情報のグループもわかりにくくなります」

 これに安達ゼミの学生が応じます。「報告のうち、その考察は利便性による順位結果を見たときに、上位にランクされたパンフレットは他と比べて罫線や区切りではっきりしていると感じた私の個人的見解を加えたものでした。多読性、つまり、読みやすさの観点では、確かに余白を因子にした分析結果のほうに有意差が出ていました」。江藤先生もフォローします。「デザインを作る人間は、自分のデザインの考え方や好き嫌いで良し悪しを判断し、読みやすいと感じることもあるのでこのような客観的な分析結果を知ることの意味を感じます」。学生も「回答時間が短く、利便性と多読性を切り離せず、回答した可能性も考えられます」。分析側と制作側の立場や認識をきちんと共有するために不要な「隙間」ではなく、誤解のない理解や適切な関係性を繋ぐための意味のある「間」が作られるような議論が続きました。

安達ゼミの学生たちの集合写真

 この授業のねらいについて、安達先生は「プロジェクト演習は、様々な問題を教育・心理・福祉の視点から理解し検討する方法を身につけることを目標としています。なかでもゼミ生には、心理学研究の知識やスキルを活用して他者と協働できる力や地域社会に貢献できる力をつけて欲しいと思っていました。そして彼等は、この共同プロジェクトを通じてその力を習得してくれたと思います」と語りました。

 立場の違う者同士が協働して何かを作り上げるのは容易ではありませんが、学生たちはそれぞれの専門分野を高めながらその実現に挑んでいます。

【授業DATA】

主な対象学生:学部3回生
開講期:2019年度前期 金曜3限

(2019年6月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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