「祈りと誓いの塔」除幕式 学長あいさつ
平成16年6月8日
附属池田小学校にて
あの痛ましい事件から3年を迎える今日ここに、事件で亡くなられた8名の児童のご家族の皆様、負傷された13名の児童の保護者の皆様とともに、「祈りと誓いの塔」除幕式を執り行うこことなりました。地元、池田市の関係者の皆様をはじめ、事件への想いをともにしてくださる多数の皆様のご臨席に、厚く御礼申しあげます。
3年前。青空の広がる、あの穏やかな初夏の朝。私たちは、この附属池田小学校へ、犯人の侵入を許してしまいました。私たちは、おあずかりしていた大切な子どもたちを、守ることが出来ませんでした。一瞬のようにして失われた命。傷ついた幼い身体と心。輝かしい未来を、突如として断たれた幼い子どもたちの無念の声、無念の涙は、私たちの胸から消え去ることはありません。
子どもたちの安全を託されていた私たちは、問い続けていかなければなりません。なぜ私たちは、こどもたちを、その未来を守ることができなかったのか。私たちには、何が欠け、何が足りなかったのか。学校の安全は、あの日、突如として侵されたのでありませんでした。学校の危機は、あの日、突如として訪れたのではありませんでした。すでに予兆があり、警告が発せられていました。これを見逃した心のすき、心の緩みは、決して繰り返されてはなりません。私たちは、尊い犠牲のうえに学びました。教師には、子どもたちを守り抜く強い心と魂がなければならないことを。学校には、子どもたちに降りかかる危険への万全の備えが、常に必要であることを。そして、社会には、子どもたちを守ろうとする大人たちの深い知恵と結束が必要であることを。私たちの、新たな誓いが、そして決意が求められています。
私たちは、今日ここに、附属池田小学校事件によって亡くなった8名の児童と身体と心に被害を受けた全ての子どもたちへの祈りをこめて、「祈りと誓いの塔」を建立いたします。この塔は、私たちの誓いの徴(しるし)であり、決意の証(あかし)であります。この塔のもとで、私たちは、固く、固く、誓わなければなりません。二度と再び、あのような事件が起きることを許さないことを。子どもたちが守られ、安らかに学べる安全な学校を実現していくことを。そして、全ての子どもたちが、安らかに過ごせる、危険のない、安全な社会を実現していくことを。
「祈りと誓いの塔」は、事件後に、全国から寄せられた義援金の一部をあてて建立いたしました。義援金を寄せていただきました全国の皆様には、厚く御礼申しあげます。塔建立の趣旨は、広く市民の皆様にもご覧いただけるよう、校門の外に設置した銘文碑に記すことといたしました。塔建立の準備にあたりましては、8ご家族の皆様、負傷児童の保護者の皆様、PTA関係者、そして地元池田市の関係者の皆様に、長期にわたるご協力をいただきました。厚く御礼申しあげます。
この塔は、本学の美術分野で彫塑を専門とする教員が協力してデザインし、提案し、設計いたしました。石材は、中国産御影石を用いており、敷石は、インド砂岩を用いております。2本の石材部分には強固なステンレス製鉄骨材を埋め込み、深さ約1m、直径約4.5mの強固な基礎の上に建てております。塔の周りの植え込みには、附属池田小学校の児童と保護者の皆さんが、それぞれの想いをこめて花々を植え込んでくださいました。これからも、私たちとともに歩んでくださる数多くの皆様の手で、この塔を大切に守っていってくださるようお願いいたします。
この塔には、8つの鐘をしつらえました。この鐘の音が、学校の安全を求め願う子どもたちの切なる声として、切なる祈りとして、広く人々の心の奥底深くに鳴り響き、鳴り渡ることを願わずにはおれません。また、この「祈りと誓いの塔」が、大きな、大きな導きの塔となって、子どもたちが守られ、安らかに過ごせる安全な学校が、我が国の隅々にまで実現していくことを願わずにはおれません。
今日、ここに建立する「祈りと誓いの塔」を、永久(とこしえ)の原点として、末永く附属池田小学校事件を世に伝え、あのような事件を二度と許さない事を誓い、8家族の皆様、負傷児童の保護者の皆様、PTA関係者の皆様、地域の皆様、関係機関の皆様との固い絆のもとに、全ての子どもたちの安全と、信頼に応え得る学校の安全を実現していくことをお誓いして、「祈りと誓いの塔」に捧げる言葉といたします。
大阪教育大学長 稲垣 卓
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