ラボ訪問 寺島 みどり 准教授

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失敗を鏡に、自分を確かなものに

教育協働学科 芸術表現講座
寺島 みどり 准教授

 家には父親が描いた絵が飾られ、幼いころから画集に親しむなど、絵画は身近な存在だった芸術表現講座・寺島みどり准教授。「小学生の頃、自分では印象派風に描いた絵を先生に『雑』と評され、ショックを受けたことを強烈に覚えています」。絵を描くのは好きでしたが、美術の授業はあまり得意ではありませんでした。

 美術大学に進むきっかけは父親の言葉でした。「ある日、父が『世の中には遊んでいてお金がもらえる職業がある。それは小説家だ』と言ったんです。真偽はともかく、企業で働くのとは違う、自分が作ったもので生活の糧を得る職業があるのだと気がつきました」。美術の勉強がしたいと考え、京都市立芸術大学に進学します。

 大学では空間全体を作品として構築するインスタレーションを主に制作していました。「専攻は油画でしたが、コンセプトがしっかりしていれば自由に制作できました。成長途中だからということで好きにやらせてくれたのでしょう」。学内では制作に集中し、遊ぶ時は積極的に外の世界に飛び込みます。「素晴らしい先生方がいて、仲間がいて、物を作ることができて、何でも許される。そういう恵まれた環境を当たり前のように感じていました」と振り返ります。

寺島みどり准教授の写真2

そのまま同大学修士課程に進学し、修了後は非常勤講師として働きます。しかし、学部からずっと同じ場所にいることに疑問を感じ始め、制作発表を続けながら働こうと一般企業に入ります。「なぜ周りの人は美術にお金を使わないのか、学生の頃から疑問でした。美大があるのに、その先の受け皿はない。なぜなのか。答えを知るにはまずは社会を知らなければと考えました」

10年ほど会社員を続けましたが、次第に制作と仕事の両立が難しくなっていきます。「美術の世界と同じく、会社にも一途に仕事に打ち込む人たちがいました。私も何か一つに打ち込まなければ」。迷った末に会社を退職。大学の非常勤講師をしながら制作を続け、2013年に本学准教授になります。

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 今めざしているのは、キャンバスの中だけでなくその外の空間にも影響を及ぼすような作品を生み出すこと。「例えば、有名な『モナ・リザ』は大きな部屋に飾られていますが、その部屋のどこにいても存在を感じるような、ただならぬ気配を放っています。そういう空間を作れるものがいい作品だと思っています」。風景をモチーフに制作を続けています。

 学生たちに企業で働いていた時のことを聞かれると「もちろん上手くいかないことだらけだったよ」と話します。「挨拶もできない、社内のコミュニティに入ろうともしない。振り返ると、最低限のコミュニケーションの方法も知らなかった。それでは周りの人を不快にしますよね」。体調を崩すこともありましたが、その時に教わったことが今に活きていると言います。「失敗を鏡にして自分を省みることで、自己を確立することができる。みんな社会に出ることを怖がっていますが、外に出て学んで、その経験を自分のものにしてほしい。未来を切り開くには、それしかありません。その力はみんなが持っています」。まずは行動してほしいと望みます。

 未来に大きな目標を立てるということはしないと話す寺島准教授。「その時できることを必死にやっていくと、今になる。過去のことも必然というか、もしあの時こうしていたらというIFの話はしないですね」。これからやって来る未来も、自身を形作ってきた過去も、ただまっすぐありのままに受け止める。そんな潔く凛々しい姿と、顔いっぱいに広がる快活な笑顔がとても魅力的です。

「TenYou ―天遊―」vol.45インタビュー&メイキングムービー

(2018年5月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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