左手のピアニストとして歩む
大学院 芸術文化専攻 2回生
有馬 圭亮さん
今年2月、「新進演奏家育成プロジェクトオーケストラ・シリーズ」(文化庁、日本演奏連盟など共催)の第10回大阪公演で、日本センチュリー交響楽団とピアノ演奏で協演しました。昨年秋にオーケストラと協演できるオーディションに合格し、今回、晴れの舞台に立つことができました。オーケストラと協演できる力量のある有望な新進演奏家として認められたのです。演奏曲はラヴェル『左手のためのピアノ協奏曲』。
有馬さんは2010年9月に、局所性ジストニア発症により右手のコントロールを失いました。幼い頃から両手で演奏するものという固定観念があったので、過酷な現実が受け入れられず、「一時は暗闇の中をさまよいました」。懸命のリハビリに取り組みましたが完治に至らず、左手で弾くピアニストとして歩む覚悟を決めたといいます。「研究したところ、片手で弾くために作られたピアノ曲がたくさんあるということを知り、救われました。歴史に埋もれてしまった曲を発掘し、その価値を研究することをテーマにしています。約3,000曲以上も作品があり、それを書き上げた作曲家は700人にものぼります」
現在、左手のための音楽の普及活動を進める「左手のアーカイブ」プロジェクトに所属。片手のための初級用楽譜「日本の唱歌シリーズ」を監修・出版するなど、ハンデキャップをもつ子どもや音楽愛好家のための活動も精力的に取り組んでいます。
「音楽の歴史を調べて分かったことは片手のプレーヤーは少ないということです」。戦争で負傷したピアノ演奏家が作曲者に依頼して楽譜を制作するというパターンが多かったといいます。楽譜が残っていても上級者用がほとんどだといいます。「どんなに優れたプレーヤーでも、亡くなってしまうとそれで立ち消えになってしまいます。それを収集し、整理していく作業です。さらに、障がいを受けている子どもや初心者がピアノを弾けるように初心者用の楽譜と演奏方法を教材として体系化することです。『片手で音楽ができる』これを必要とする人の希望になれると嬉しい」
とはいえ、周りの助けがないとそれらの活動は進みません。「わたしを指導し、励ましてくれました本学の先生方、また、「左手のアーカイブ」プロジェクト代表の智内威雄先生には様々なご配慮、ご指導をいただいています。多くの人に支えられて、今のわたしの研究を取り組むことができているということを強く感じています」。そのうえで「もちろん、今後もピアニストとしての活動も広げていきたい」と意欲的です。
指導教員の志賀美津夫教授は、「この病を克服して再びステージに立った世界的ピアニストもいるので、それを信じて当面の研究課題に取り組んでいってほしいと思います」とエールを送ります。
(2013年5月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。
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