「先生には、絵本作家になるという夢があります。今からその夢の叶えるために、先生を辞めることにしました。あきらめずに目指せばどんな夢でも叶えられます。先生も夢を叶えるので、みなさんもどうか自分の夢を育てて叶えていってくださいね。今までありがとう。さようなら。」
今日は離任式。体育館の舞台から見る最後の子ども達の顔。泣いている顔、複雑な顔の子ども。にこにこ笑顔の子ども。花束をもらって、笑顔でみんなに手を振りながら花道を退場する。たくさんの拍手。もうここに来ることはないんだな…と思うと少し寂しい。でも新たな人生を歩むと決めた私は、全く後悔はない。爽やかな気持ちで体育館を後にした。廊下ですれ違った担任したことがない低学年の子達が、先生が絵本出したら、おれら買うからな~。がんばってね。と声をかけてくれた。かわいい。
教師を20年もやっていれば、最後の日にみんな号泣するような最高のクラスもあれば、いじめや荒れでたいへんなクラスもあった。でも、ただひたすら子ども達のために駆け抜けた20年。特に力を入れたのは、楽しい授業づくりと学級通信。クラスのステキなエピソードや、子ども達の作品の数々、人として大切なこともたくさん盛り込んだ通信は、年間100号から150号発行し、心待ちにしてくれている子ども達や根強いファンの保護者の方もおられた。
それから、私は、作家活動を始めた。絵や短編小説、絵本などを描いたり、いろんな人との出逢いを楽しんだり。私は、美大出でもない、全くの素人からのスタート。でも、個展やグループ展に出したりする中で、ファンの人も増え、秋に古民家を一棟お借りして催した1週間の個展には、まだ活動して間もないというのに230名もの来場者があった。
2週間前、ふと元教え子にも会ってみたいなあという気持ちが芽生え、もらった年賀状から数人の元教え子に案内のハガキを出してみる。そして、個展のコンサート当日。数人の教え子がお母さんと一緒に見に来てくれた。コンサートも一緒に鑑賞してくれた。フルートやオカリナ、クリスタルボウル、絵本の読み聞かせにフラ。私もインディアンフルートと歌を披露して終了。子ども達やお母さんたちが笑顔で駆け寄ってくれて、「来てよかったです。来年も楽しみにしています!」子ども達も私に会えて喜んでくれていた。
夕方、人もまばらになったもうすぐ閉店という頃、親子が駆け込んできた。よく見ると、4年生の時に担任した女の子とお母さんだった。忙しい中、なんとか時間を見つけてきてくれたという。お母さんが「この子、先生の学級通信の束を今でも大事に持ってるんです。なんか辛いこととかあると、一人で部屋でそれを読んで元気をもらってるんですよ。本当に、今日は先生にお会いできてよかった!」と話してくださった。シャイなその子は、多くを語らないけれど、表情がすべてを物語っていた。彼女はちょっと涙ぐんだ笑顔で笑いかけてくれた。帰り際、その子のお母さんがこっそり教えてくれたこと。「あの子ね、学校の先生になるんだって、頑張っているんです。先生みたいになりたいって。」閉店までわずかな時間。ばたばたとしてゆっくりと話す時間がなかったけれど、二人に会えたことは、私にとってはとても感動的な出来事だった。私が必死で取り組んできた20年の教師生活。振り返った時に、果たして意味があったのだろうかと思うこともあった。でも、彼女の思いを知って、ああ、たった一人でも、心に残るものを与えることができたならば、私の教師生活は決して無駄ではなかったのだなと改めて感じることができた。
彼女は、私が語ったように、自分の夢を叶えるためにがんばっている。私も、マルチな表現者としてこれから自分の夢を叶えていくつもりだ。それが自分や自分の未来を信じられなくなった子ども達への勇にも繋がると信じて。
「私は、夢叶い人。」