エッセイ

高等学校
2021/01/04
教え子からの一言にどきどき
 

SNSに、感動した英国の女性用衛生用品メーカーが作成した動画「子宮物語」を挙げたときのことです。動画には多様性の受容が流れていて、すべてを尊重する姿勢が随所にみられる映像でした。アップして「すばらしいと思います」とコメントをいれたらすぐに反応がありました。かつての教え子で現在婦人科ドクターをしているAさんからでした。「面白い映像を紹介してくださりありがとうございます!こういうのを思春期のころから見せるといいですね。自分も高校生の時、先生の机にあった分娩の写真の載った本が衝撃的だったのを、今でも覚えています!」「過去の自分には恥じ入ることばかりです」と返したら「いや、それを見たから今の私がいるのかも!」ということばが来ました。

大学病院ドクターとして、また研究者として発信を続けているAさんからのひとことですが、こんなに僕の心に響いてどきどきするとは思ってもみませんでした。自分の発信に応えてくれる人がいて、自分の行動が人の将来に影響したかもしれないということに緊張感が生まれていたのです。Aさんとはバスケットボール部(僕は男子の顧問でAさんは女子のプレイヤー)での接点から始まって、時々何人かで体育科の教員室に来ていたことを思い出します。 

僕はAさんが来た時、レナルト・ニルソンの写真集『A child is born(赤ちゃんの誕生)』を気に入っていて机の上に立てかけていたのだと思います。きっと自分の著書であるかのように解説し自慢したのだと思うのですが、Aさんには印象に残ったのでしょう。高校の1年生の頃から誰に対しても物おじせず聞きたいことは質問し、言いたいことは発言するので将来を楽しみにするようになってはいましたが、本当に影響したのでしょうか。

エピソードになりますが、大学院の頃「学会で女性のからだについてポスターセッションをするので見にきてください」と言われ会場の科学技術館に行ってびっくりしたことを覚えています。なぜかって、短パン、Tシャツの上に白衣で説明している姿を見ては驚くしかないでしょう。隣の人はスーツにネクタイ姿なのに。「どうしたの」と聞いたら「オペを終えてから来て、ここで説明して、この後戻って昼からオペなんですよ。だから自転車とばしてきたのです。」Aさんの人となりが高校生の時となにも変わっていないことのほうが嬉しくて笑顔を浮かべてしまいました。僕だったら着ている服で発表の中身をカバーして見せたと思います。

Aさんのその後の活躍は、同じ研究室にいたBさんからも聞いていて「がんばっているんだなあ」と遠くから応援していました。そんなAさんからのメールですからびっくりしたわけです。教員生活を長くしてきて、その中で自分のひとことや行動が生徒に影響を与えていたことは、うれしくもあり怖くもなります。今回はうれしくてたまらなかったのですが、同時に逆に教員の行動で生徒のその後を変えてしまうこともあります。僕が芽を摘み取ってしまったかもしれません。無意識に踏みつけたかもしれません。Aさんからの返信でどきどきしたのは、生徒を傷つけた教員生活を思い出したからかもしれません。

教員になることはお金にかえられない生徒とのつながりにあると信じています。生徒の成長が自分にも跳ね返ってくると考えています。それだけに、無意識や無自覚で傷つけたり摘み取ったりしないよう、教員は一生研修し勉強していくべき職種だと自覚させられた一言でした。