エッセイ

高等学校
2020/12/22
「あなたみたいな先生になりたい」
 

教師として勤め始めて、もうすぐ2年になります。1、2年目ともに高校1年生の担任を持つことになり、同じ1年生でも集団が変わることで、同じようにはいかないのだと実感しております。生徒の予想外の行動に戸惑うこともありますが、それなりに楽しみながら毎日を送っています。

私が勤めている学校では、高1に文理選択があり、進学したい学部や就きたい職業を見据えて類型を決める面談があります。まだ明確な希望進路が決まっている生徒が少なく、担任をしているAくんもその一人でした。彼は自分に自信が無く、自分の意見を話すことが苦手な生徒で、何だか自分の将来を諦めているような感じでした。家庭的な問題を抱えていたこともあり、何度も面談をしていました。

ある面談日でした。その日は進路に関する二者面談で、Aくん含め何名かの予定が入っていました。朝、Aくんが「自分の番を最後にしてほしい」と申し出てきました。話し始めるまでに時間がかかるため、長くなりそうだから次の人が待たないように、と彼なりに配慮した判断だったのでしょう。そんな気遣いができるようになったことに感心しました。時間になり面談を開始したものの、やはりなかなか言葉が出てきません。きっとまた相談したい悩み事があるのだろうと思い言葉を待ちましたが、そのまま30分も経ってしまいました。仕方がないので、直接話しにくい話なら紙に書いてきて、と言って解散しました。

そして翌日、渡してくれた手紙には、こんなことが書かれていました。

「実は面談では悩み事を話したかったわけではありませんでした。いつも先生の問いかけに対してすぐに答えられなくて本当にすみません。わざわざ先生の忙しい時間を割いてまで2人で話す機会を設けてもらっているのに、思ったことがすぐに言い出せなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。せっかくなので、今先生に言いたいことを少しここに書きます。この間は部活や家族のことで相談しましたが、悩み事を人に相談するのは人生で初めてでした。先生の言う通り、僕はずっと一人で抱え込んでいて、友達もいるのにどうしても相談できなくて、正直今まで苦しかったです。でもなぜか、先生なら真剣に聞いて受け止めてくれると思えて、相談してみました。やっぱり先生は本気で向き合ってくれて、優しい声と言葉で救ってくれました。昨日もそうやって向き合ってくれて、帰り道も、帰ってからも、この手紙を書いている時も、少し泣いてしまいました。実は僕は今、教員になりたいと考えています。その理由はあなたみたいな先生になりたいと思ったからです。今の僕がなれるわけないけど、先生は今の僕の目標、そして憧れの人です。先生がいつも支えてくれるから、多少しんどくても学校に行けます。大丈夫だと思えます。昨日は言い出せなくてすみませんでした。」 

話すと言葉に詰まるのに、文章になるとこんなに書けるのか!と驚きました。隠れた才能を見つけた気分でした。そして、胸が熱くなりました。「あなたみたいな先生になりたい」だなんて……!これほど嬉しい言葉はありません。夢を見つけ少し前を向くことができたのか、それからの彼は教師に言われるがままではなく、今できることを自ら見つけて取り組むようになりました。 

教師が生徒と真剣に向き合うことは当たり前ですが、時間がかかります。時に疲れてしまうこともありますが、向き合った分、必ず良い変化が訪れると信じていいのだと実感できました。「あなたみたいな先生になりたい」と思い続けてもらえるよう、信念を持って励みたいです。Aくんが教師になって、いつか同じ立場で働く日がやってくるのだろうかと思うと、楽しみでなりません。いつか同じ現場で、こんな手紙くれたよね、なんて話ができるといいなと思います。Aくんからの手紙は一生の宝物です。