エッセイ

小学校
2020/11/08
教師の仕事
 

教師になって20年目、4月に転勤した学校で4年生を担任した時のことです。校長先生から「4年生をお願いします」と言われたときは、すでに経験のある学年だし、大丈夫だというような自信をもちながらも、新しい学校での出会いに期待と不安のなかでのスタートでした。

始業式の朝、担任発表があって、はじめて子どもたちと出会い、教室へ向かう途中、一人の男の子が横の子の頭をたたきました。すかさず注意すると、反抗的な態度で言うことをきかない。「おまえなんか・・」と捨て台詞。男の先生に担任してもらいたかったのです。まだまだ血気盛んだった私は、負けじと向かっていき、いつまでも落としどころなく・・・。惨憺たるスタートに暗い気持ちで一日を過ごしたことを今でもよく覚えています。

クラスには、他にも家庭環境からすさんだ気持ちで登校している子どもや発達障害を持っている子どもなど、当たり前ですが、多くの個性的な子どもにあふれていました。これまで注意されることが多く、まじめに取り組んでいる子どもたちも含めてクラス全体が「どうせ私たちなんか」という思いを持っているのをひしひしと感じることもありました。

今振り返ってみると、私にできることは多くはなかったと思いますが、とにかく一日一日がむしゃらに子どもに向かっていったと思います。事件が起こったり、問題が起こったりして、その対応に追われていると、自分自身が消耗していくので、とにかく後手に回らず、攻めていくことを毎日考えていました。キーマンになる子が話し合いに入りそうな教材を考えたり、何もやろうとしない子に1問だけ解けばOKと言って一緒にサポートしながら解き「できたね」と褒めたり(決して欲を出してもう1問と言わず、約束は守る)していきました。今までしなかったことをしたときは、とにかく褒めました。「できて当たり前」と思われるようなことでも褒めました。席に座っている、教科書を出す、ノートに自分の考えを書いた、自分の意見を言った、当番の仕事をした、など、いつも「あなたを見ているよ。あなたは素敵。あなたには大きな可能性がある。」ということを伝えたいと思っていました。子どものレジリエンスを高めたかったのです。そのための取組もさまざま行いました。

一方で、子どもたちに「彼は彼、私は私。でも、私にも彼にもいいところがある。」ということを、まわりの子どもたちに折に触れては話し態度にも示していくことで、子どもと子どもをつなげていくことに心を配りました。

そして、3月。最後の参観は感動の嵐でした。どの子どもも生き生きと自信に満ちて、自分たちの学習の成果や思いを披露していました。私自身も今まで味わったことのない充実感に浸っていたのです。そのときの感動は、20年近く経った今でも胸によみがえってきます。子どもは変わる、成長する。―教師は、長い子どものこれからの人生のほんのわずかな時間をともにするだけですが、子どもの心にいろんな芽をつくっていける素晴らしい仕事だと今改めて思っています。