38年の教師生活を経て6年間児童相談所の一時保護所で中高生相手に教鞭をとりました。社会の矛盾や歪みを一身に背負った子どもたちと生活し学習します。一時保護所は、虐待やネグレクト、育児不能などの理由で緊急に保護が必要になった子や、非行、虞犯(ぐはん)、触法行為によって補導された子などが混在処遇されている所です。それぞれの子どもは様々な要因で傷つき、もがき苦しんでいます。どの子も皆深刻です。小さい頃からの虐待やネグレクト、叱り続けられて育ってきたことがトラウマになり、相手を攻撃することで身を守る術を付けたり暴言、暴力で従わせようとします。いじめも起こります。ただ決められた生活をするだけでも、長期化するとイラ立ち、不満は頂点に達し爆発します。
“どの子も大切にする教育”を実現するには、子どもの言動や「事件」を皮相的にとらえるだけでは出来ません。子どもの心の深層をしっかり捉えてることがまず必要です。そこから信頼関係も生まれます。そして、子ども自身があるがままをさらけ出し葛藤し、取り組み、はじめて成長していくのです。
Aさんは中1の女子。ボス的存在でした。施設などを転々とし、大人は信用していません。保護所も長期化し大きな暴力事件を起こし、禁止の無断外泊もしました。このような場合、職員は我がことの様に真剣に耳を傾けて深層に迫ろうと努力します。
彼女の反省文から深層が少し見えます。
「この所の私はヒドイ。何やってんのか分からない。キレやすくなっている。度も越している。悩みで頭はパンパン。こんな自分だから親は見捨てるんだ。ママから”殺してやろうか”と言われた時、すごく胸が痛かった。これと同じコトバで相手をおどし怖がらせている。私なんか生まれてこなきゃよかった。本当の自分を捨てている。本当は毎日笑顔で過ごし、ここを退所したいのに。」
Aさんは頭をパンパンにする程悩み、自分探しをしているのです。大切なのは彼女の想いをじっくり聴き受容し共感することです。そして何と言っても自己肯定感を持ってもらう事です。あなたはかけがえのない大切な人というメッセージを届け、生活学習の面で”やれば出来る”という自信をつける取り組みです。同じような失敗は繰り返ししましたが退所後の手紙には、「話されたことが心に残ってる。退所しても厳しさが待ってるよ。つらい事がいっぱいあると思う。だからこそ人間は成長する!」とありました。
子どもたちは、認められ、励まされ、褒めてもらう(私は”み、は、ほ”の原則と呼んでいる)ことで少しずつ自尊心を、回復していくのだと思います。