エッセイ

小学校
2020/09/11
物語の力、絵本の魅力

30年ほど前に担任した5年生のクラスは、三十数名の児童のうち男子が三分の二で、その内の半数が手強いやんちゃな子たちでした。新学期、教科書を手渡した日に、何人分かの教科書がごみ箱に捨てられている有様でした。そうした子どもたちと、そうでない子どもたちと私が共有するものを持ちたいと、試みたのが物語の読み聞かせでした。授業がうまく成り立たない中でも、全員が興味を持って聞いてくれたのが幸いでした。

取り上げたお話は、アラスカの大地で群れを作って生きるオオカミや、犬橇(ぞり)を使って生活する人間と橇(そり)を引く犬たちとの交流を描いたものでした。子どもたちが俄然興味を持ったのは、オオカミの群れや犬橇(ぞり)の犬たちのリーダーの姿でした。それぞれの動物の群れの姿と自分たちのクラスの様子とを重ね合わせて聞いてくれたことが幸いでした。そしてグループで尊敬される者にはその資質があるのだ、ということに感じ入ったようでした。

読み聞かせを続けていくうちに子どもたちは少しずつ穏やかになり、集団の一員としての自分を意識するようになりました。教科書を捨てた子たちは受け取りには来ませんでしたが、自分で参考書を用意して授業に臨む、と意欲を見せてくれました。手が出る前に言葉で伝えるようになったので対話も進み、お互いの気持ちが落ち着きました。物語の力が子どもたちを導いたことを強く感じたものでした。

私はそれ以前から読み聞かせや絵本などを取り入れた授業はしていましたが、司書教諭として一層力を入れて実践していこうと思うきっかけになりました。図書の仕事に携わることは、たくさんの本と出会う機会でもあります。担任する学級に合わせて、調べ学習や読み聞かせなどで、折々、子どもたちと本をつないできました。学級の子どもたちと絵本を読んで笑い合ったり、感動したりした日々のことは、思い出すと今でも心が和みます。
絵本や物語は、学級指導や学習の教材に活用することができます。子どもたちにとってお話を聞いたり、美しい絵本を読んでもらったりするのは楽しい学びの時間になります。みんなで楽しく聞いているうちに、聞く習慣がつき、本や絵本という媒体を子どもと先生が共有するうちに気持ちが通い合い、よりよい学習の基盤ができると思っています。