学長インタビュー「グローバル化に対応した大学をめざして」

平成26年4月から就任された栗林澄夫新学長に,大阪教育大学の未来像について話を聞きました。(聞き手:赤木登代・広報担当学長補佐)

学生支援を第一に重視したい

― 学長就任にあたって、まずは抱負をお聞かせください。

栗林 これからの大学運営にとってもっとも重要なのは学生に対する支援です。それは、何よりも教学面でのサポートです。さらに学生生活を送るうえでの環境面の充実も欠かせません。
 教学面でのサポートは、この間進展しつつある大学のグローバル化の側面を第一に考えなくてはなりません。それはつまり学生が日本国内だけでなく、国際的な場で活躍できる能力を身につけていくために大学が行う支援のことです。たとえば、グローバル化の中でその必要性が大きく叫ばれている英語の運用能力を伸ばし、それを明確な指標、たとえばTOEFLやTOEICといった外国語検定試験のスコアで証明できるように学習支援を行うことです。

 それから、教員養成における免許の厳密化があります。学生一人ひとりが、それぞれの教育内容について自信を持って説明できる力をしっかりと養っていく。そのための多様な支援活動です。
 これからの大学運営にとってもっとも重要なのは学生に対する支援です。それは、何よりも教学面でのサポートです。さらに学生生活を送るうえでの環境面の充実も欠かせません。
 国立大学法人の中でも本学はこれまで学生支援を積極的に進めていると自負しています。それが、どういうところに現れているかといいますと、まずは学費免除が挙げられます。豊かでない家庭環境の中で教職をめざして一生懸命がんばっている学生を支援するために授業料を免除することは極めて大きな意味を持っています。国立大学法人が発足したときには、授業料全体の5.8%の枠でやっていたのですが、大阪教育大学独自の方策も含めて、すでに8%を超える授業料減免の支援を行っています。
 これは、学生の学習環境を整えるという施策の特徴的なことだと思います。この他に、学生が語学を自主学習するブースを附属図書館内に設置したり、CALLシステムの自習スペースを整備、拡大することも計画しています。
 さらには、授業実践をサポートするスタジオを設けて、学生の授業風景を自ら点検するという体制も整え、こうした面でも教育内容を充実させていくという努力が行われています。また、教育実習については、附属学校園で盛んに取り組まれています。
 現在、本学は全国の基幹的な4教育大学が連携するプロジェクト(通称「HATO」)、そして、京阪奈3教育大学連携プロジェクトを進め、新たな教員養成の可能性を追求しています。現在、その一環として遠隔(双方向)授業システムが実施されていますが、こうした先進的な取り組みを通じて学生の支援策の強化を図っています。

国際化に対応した英語力養成

― 先ほど抱負の中でも重要な目標として掲げられましたが、グローバル人材育成が日本社会における喫緊の課題とされています。その中で特に教員養成大学が取り組むべき使命について、どのようにお考えになりますか。

栗林 「グローバル化」「国際化」というのは今、急に始まったことではないと思います。戦後の経済発展の過程で、日本が先進国の仲間入りをし、諸外国と付き合うことになる中で、元々、国際的な展開というのは必要だったのです。
 そのことについて、わたし自身の人生を振り返ってみますと、国際化が大きく叫ばれるようになったのは、日本が高度経済成長時代に入った昭和40年代です。わたしはちょうど団塊の世代の末に当たる世代だと思います。その時期は、学生運動が盛んになる時代でもあるのですが、他方では、国際的な事柄に目を向けなければいけない時代でした。
 1つはベトナム戦争にどのように対応するかということがありました。作家の開高健が戦時下のベトナムに行き、その現地リポートが日本の若者に衝撃を与えました。
 その意味で、あの時代、国際化に対応するということは、国際的な事象に目を向けるということとイコールでした。それ以降も、国際化に目を向けるという言葉は消えることがなかったと思います。

 ここに来て、ふたたびグローバル化が強調されるようになってきたのは、日本以外の諸外国、中でも発展途上国の人たちが、グローバルな展開をするようになり、競争的な環境が目立つようになってきたということがあります。例えばシンガポール、インド、フィリピンなどは高い語学力をもっており、それが発展を後押ししているといわれています。つまり、発展途上国でも語学力は国の発展に不可欠なのです。
 それに比べて、日本の語学力(英語力)は、たとえばTOEFLスコアの国際比較をみても、アジア諸国の中で最下位争いをするほどです。そこで、教育の現場でグローバルな人材を育成するということだと、やはり、国際的なコミュニケ―ションのベースとなる「使える英語力」の養成ではないかと思います。そして、学生が身につけた英語力は、客観的な指標、つまりTOEFLあるいはTOEIC等の国際的に通用するスコアで説明できるようにしておかなければなりません。これは教員養成大学に限らず、すべての高等教育機関で必要になっていると考えています。
 同時に、大学の教科専門科目でも外国語による授業というのが必須になってくると思います。大都市圏で教員養成を担っている本学の教科専門の授業でも、日本人の教員、外国人の教員にかかわらず外国語で授業をするという努力は避けて通れないことです。

海外の協定締結校を増やしていきます

― 栗林学長は以前、留学生センター長(現・国際センター)として本学の国際交流に尽力されてきました。 そこで、昨今、内向きといわれる日本人学生の海外留学についてどのようにお考えですか。

栗林 わたしがセンター長の時は、海外の交流締結校は、10数校程度しかありませんでした。
それが現在では40校を超えるまで増えています。しかしながら、これで十分とは全く思っていません。海外では中規模の大学であっても100校以上の協定を結んでいるケースはざらにあります。今後は、協定校もさらに多様な地域から、しかも様々な特色をもった大学を求めて、拡大に努めたいと思っています。

― 受け入れ留学生も増やすという方針なのでしょうか。

栗林 本学に受け入れている留学生は現在、150人を超えるようになりました。
国際センターを中心とした教職員の努力が実を結んだものとたいへん喜んでいます。一時期は170人を超えたこともありますが、これでも決して十分だとは思っていません。東京や大阪はメガシティーですから、国際化という観点からもっと多くないといけません。
 東京学芸大学を例に取ると、かつて500人を超える留学生を受け入れていました。
学生規模を単純に比較しますと、本学は東京学芸大学の約4分の3ですから、最低でも200人を超える留学生の受 け入れが必要だと思っています。また、送り出す方についても少なくとも100人を超える日本人学生を派遣することをめざしたいと考えています

他の教員養成大学と連携事業を推進

― 教員養成について、現在、大きなプロジェクトが2つ進んでいます。 いずれも他の教員養成大学との連携ですが、どのような成果を期待されていますか。

栗林 HATOプロジェクトは、北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学と大阪教育大学が連携している事業で、その中には様々な事業が含まれています。それぞれ、国際的な観点を含めて進めており、最終的なねらいとしては、全国の基幹的な4教育大学が連携することによって、新しいかたちの博士課程のあり方を模索しています。
 京阪奈3教育大学連携プロジェクトは、奈良教育大学、京都教育大学、そして大阪教育大学が、様々な事業による連携の試みを展開しています。この中にあって現在進んでいるのが、双方向遠隔授業システムによる連携です。この事業でも最終的な目標とするのは、やはり3大学が連携するシステムを活用した博士課程の設置です。スケジュール的には、平成29年・30年度をめどに新しい形の博士課程の設置を考えています。そのために、基礎となる様々な事業を進めているところです。

教職大学院の設置も推進

― 教職大学院の設置準備も進んでいますね。

栗林 教職大学院はすでに他の多くの大学で設置されています。しかし、本学はこれまで教職大学院を設置してきませんでした。その理由は、制度として整備されたものの、教職大学院を修了した学生に対する保障が必ずしも定かではなかったからです。つまり、管理職としてどのような処遇が得られるのかということと、学生の確保が必ずしも明確でなかったという2つの理由です。しかし、制度としてあるものをいつまでも取り組まないでいるのは許されないことだと思います。そのような理由で、現在、平成27年度設置に向けた準備を進めているところです。
 また、教職大学院は、取得単位が45と、一般の修士課程が30単位であるのに比べてかなり多いです。そして、教員の実践力を身につけさせるために10単位の実習が含まれていることが特徴としてあげられます。つまりこれまでの修士課程に比べてより「高度な大学院」として位置づけられていますので、これを進めることは、教員養成の博士課程を設置するステップとしてどうしても必要なことだと考えています。

情報化社会に対応した新しい図書館

― 栗林学長は附属図書館長を兼任しておられました。そこで、情報化社会に対応した人材育成について図書館をどのように活用していくのか、お考えをお聞かせください。

栗林 附属図書館長を兼務するようになってから、心がけてきたことは2つあります。
 1つは、図書館は「情報の倉庫」だと思いますが、社会が急激なデジタル化の波に直面していることから、それに対応した取り組みを行わなければなりません。たとえば、研究面での電子ジャーナル利用を促進することです。電子ジャーナルの購入については、各研究室単位であったものを大学の共通経費にして、大学全体の責任として受け入れ、タイトル数を倍増させることも実現しました。こうして大学院生も含めた研究支援を積極的に行ってきたのです。
 2つめは、図書館の機能を社会に向かって開いていくという取り組みです。図書館の中にある様々な情報リソースを、放送大学や大学近隣の人たちに向けて公開してきたのです。また、催し物として、たとえば古地図や卒業生で有名な人たちの蔵書や関連資料を、できるだけ多くの市民に見てもらうことを心がけてきました。最近行った児童文学作家の灰谷健次郎、民俗学者の宮本常一の展示会もその一環です。

学生の羽ばたきを大学は支援します

― 本学の学生は高いポテンシャルを有しています。しかし残念ながら、それを十分に開発し切れてはいないのではないかと思われます。新学長として、そういっ学生にエールを送っていただけますか。

栗林 本学を訪れたお客様から「大阪教育大学の学生さんは実に礼儀正しいですね。質が高い」とよくほめられます。そのことに誇りを感じています。学生一人ひとりは頑張っていますし、これからも努力を続けてくれると信じていますが、いかんせん大学側の学生へのサポートが十分にできているとは思っていません。
 冒頭の質問でも述べたように、学生支援の第一は、教育内容だと思っています。 学生が自ら外に向かって誇ることのできる指標、スコアであるとか、資格取得であるとか、それをきちんと身につけさせてやりたい。そのために、学生自らが学習計画を立て、途上で自ら点検、検証し、改善できる、そういうシステムをつくることが必要であると思います。
 大学としては、シラバスの内容整備、教育内容の点検、結果の確認、そういうことが十分にできるような仕組みをつくっていくことが最低限必要です。この点でも残念ながら、今の本学は十分でないと思っています。学生が社会に羽ばたいていくためには、もっと早い段階から準備が必要だと思います。具体的には、実習や研修で附属学校園をもっと活用する、あるいは企業にもっと協力してもらうことが、これまで以上に必要です。また、学生が海外に留学して勉強する取り組みについても支援策を講じていき、国際的な視野を身につけられるような仕組みをもっと考えていきたいと思います。

(2014年特別号(vol.29)掲載)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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