全日本女子バレーボール監督 としての経験
栗林 学校現場では学級崩壊を起こさないためにも、教師にはクラスにおけるマネジメント能力の向上が求められております。グループを上手にまとめるヒントがあれば教えていただけますか。
柳本 私が全日本女子バレーボール監督に就任する前までは、全日本は日本のナンバー1チームのメンバーが招集されていました。そこにメスを入れて、チームの成績ではなく個々に能力が高い選手を集めるために完全選抜制にしました。具体的には、センターの吉原知子、セッターの竹下佳江、ウイングスパイカーの高橋みゆきの3人です。この3人とも、個性は強いのですが、挫折を経験していました。我々の世界は4年に1回のスパンで強化しますから、オリンピックの出場を1回逃すと、ミスを取り返すのに8年かかります。そういう意味では、チームの中心に挫折や勝負の怖さを知っている人間が必要だったのです。吉原は練習でも率先して若手を引っ張ってくれましたが真っすぐに突き進むタイプだったので、補佐役に竹下を入れて、さらに性格に幅のある高橋を入れました。私は男子も女子も監督を経験しましたが、男子と女子の世界では指導方法はまったく違います。
栗林 女子の指導では、どういった特色があるのですか。
柳本 女性の集団には目に見えない序列が存在します。チームをうまくまとめるには、個性の異なる2トップで引っ張っていけば、大概うまくいくと思います。私は壁を乗り越えてもらうために、選手に限界を超えた要求をしましたが、1人だと不平不満を言ってやめて終わりです。でも、2人だと文句を言いながらも、お互いを意識して壁を乗り越えようとしてくれるのです。女子の監督就任当初は、その辺りがわからなくて苦しみましたね。女子の監督をして、色々勉強になりました。
教師を目指す学生へのメッセージ
栗林 最後に、本学の学生に向けてメッセージをお願いします。
柳本 2012年に大阪市立桜宮高等学校で顧問に体罰を受け生徒が自殺した事件が起こりましたが、私はスポーツ指導刷新のために同校の改革に携わりました。当時の桜宮高校は、校内のガラスが割られたり、生徒の自転車がパンクさせられたりと、風紀が乱れていました。私はその時に、生徒に2つのことを伝えました。1つは、生徒たちにとって桜宮高校は卒業してからも故郷になるわけですから、「誇りを持ちなさい」と言いました。そしてもう1つは、「金メダルを目指しなさい」と言いました。高校時代に、切磋琢磨して得た知識や経験は次のステージに進んだ際に必ず活かされるものだと思います。限られた高校生活を全力投球し、全員が幸せという金メダリストになってほしいと願いを込めて言いました。大阪教育大学の学生も、誇りと志をもって教壇に立ち、人生の金メダリストを多く育てていってほしいと思います。
栗林 ありがとうございました。
これまで教員養成大学は、教科による専門的知識の習得に重点を置いてきましたが、現在の役割や使命は大きく変わってきていると思います。教師には、学級をマネジメントするだけでなく、いじめや不登校の問題に対応していくために生徒の個性を見極めていく能力が求められています。先生の話をお伺いして、我々も教員を育成していく中で、同じような課題を克服していく必要があると実感しました。希望をもって、今後も学生の育成に取り組んでいきたいと思います。