令和3年度学位記・修了証書授与式式辞(3月24日)

令和3年度学位記・修了証書授与式式辞

 一昨年の年初来、コロナウイルスによる感染症が猛威を振るったことから、昨年は、従来通りの学位記授与式の開催を見送らざるを得ませんでしたが、今年も引き続き、同じウイルスのオミクロン株による感染拡大が続いていることから、類似の対応を迫られることになりました。非常に残念に思っています。また、カリキュラムの実施に際してオンラインによる受講を導入することになり、急な対応を迫られて混乱した人も少なくなかったと推測しています。しかし、高等教育の領域においても急速にグローバル化が進展し、国際的なコミュニケーション促進のためのICT技術の習得は必須となりつつあり、皆さんが混乱状態の中で身に付けた力量は、こうした不意の環境要因によって色褪せるものではありません。現実の事態を認識しながらも、できるだけの安全を図りつつ、これまでの皆さんの成果を認証し、大学として心からお祝いする機会としての学位記・修了証書授与式をここに実施いたします。皆さんが手にする学位記は、大阪教育大学におけるこれまでの努力の成果の証明書であり、また同時にこれから皆さんが生きていく実社会での大きな足掛かりの一つとなるものです。大学における自分自身の到達点として大切に保管していただきたいと思います。

 本日を節目として教職に就き教師としての生活を新たに始める多くの卒業生、そして企業人や公務員として社会にはばたく卒業生、さらには専攻科や修士課程を修了した皆さん、皆さんが向き合ってこれから生きていく社会は、近年大きく変容してきましたし、また、現在も変容し続けています。自由と成功へのチャレンジが保障されてきたアメリカ合衆国に大きな変化の波が押し寄せているように見え始めている事、それに対決するかのように中国が逆方向のヨーロッパに向かっての連帯を強化している事、この両者の立脚する原理・原則の違いが生み出す政治的対立、さらには旧ソビエトが持っていた国際的な影響力を手放すまいとするロシアなどの大国による政治的な駆け引きと、そのことに影響されて流動化する国際状況、加えて新型コロナウイルス感染の拡大によって各国で生じている入国禁止措置がもたらす閉塞感は、今、世界が大きな変革の波に遭遇していることを改めて私たちに認識させます。これらの事実は、世界を一体化しようとするエネルギーと国単位の利害との相克と見做すこともできますが、将来に向けて皆さんを含む私たちが解決すべき大きな課題でもあります。
 他方、私たちの日本は、今後前例の無い少子高齢化した社会へと、継続的に向かっていくことになります。今後の二十年を見渡せば、大学への入学を迎える18歳人口は、二十年後の時点で現在の五分の一が減少する可能性をはらんでいる、と言われています。さらにはまた、今後十数年の間に、大学を卒業して就職する人々のおよそ65%が、AIの発達などにより、同じ職業であり続けることができなくなる、という指摘もなされています。そうした状況を克服するために日本は、教育の再構築をしなければならない、とりわけ、教育の接続に関して、質を確保し一層の高度化を図る必要がある、と言われ、学校教育全体の見直しが必要にもなっています。教職に就く本学の多くの卒業生の皆さんには、教育方法、教育内容の一層の改善を始めとして、教育システム全体に及ぶ提案力が期待されるところです。また、社会人として教職以外の分野で新たな生活を始める卒業生、修了生の皆さんは、大都市圏の国立大学を卒業、修了した人材に期待される社会的役割を再認識いただき、社会のリーダー的な役割を果たしていただきますよう、強く期待しています。

 私たちは、今、歴史的な大転換の時代を迎えています。そして、そうした歴史の転換点の特徴である不確実の時代に私たちは向き合っているのです。その時に重要なのは、孤立して考えることではなく、ともに働くという「協働」の精神と、他者への思いやりに基づく「連帯」の姿勢であろうと私は思います。自らはしっかりと自己を確立し、自立しつつも、同僚や、教師として担当するクラスの生徒たちと手を結びあい、共に成長しようとする連帯の志を持った人材が待たれているはずです。学校現場ばかりではなく、企業であっても同様に、自己を確立するとともに、組織の中で協働し、連帯した関係を結んでいくことは組織の発展のための基本である、と考えられます。卒業、修了される皆さんに期待したいのはこのことです。在学中に培った学友との関係、先輩や後輩たちとの関係を、今後も維持するとともに、それを今後の社会活動や社会でのリーダーとしての貢献に活かしていってほしいと強く望みます。
 大阪教育大学の学生は、幸いにもこうした点に優れています。悲しい思い出ではありますが、平成13年に附属池田小学校で8名の尊い児童の命が奪われ、多くの生徒が負傷した後、1年経っても大学は混乱の中にありました。学生の皆さんにも事実の概要を報告し、協力を求めたいとした私たち当時の執行部が学生を対象とする全学集会を開いたところ、多くの学生が口々に参加と協力の声を挙げてくれました。私はあの時の体が震えるほどの感動を忘れることが出来ません。過去の本学の内部でのこのような事実が示しているように、皆さんは、これまで十分に協働と連帯への基盤的な体験をしてきています。皆さんが大阪教育大学での経験に誇りを持って、これから活躍してくれることを期待したいと思います。

 学部生の皆さんの卒業、そして大学院並びに特別専攻科の皆さんの修了、本当におめでとうございます。

 2022年3月24日
大阪教育大学長
栗林 澄夫

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