令和3年度入学式式辞(4月2日)

令和3年度入学式式辞

 大阪教育大学へ入学され、本日ご出席いただいています学部、大学院並びに特別専攻科学生の皆さん、ご入学おめでとうございます。心から歓迎申し上げます。昨年の年初から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の影響により、過去の入学式とは異なった形態での入学式とさせていただくことになりましたが、皆さんをお迎えするにあたって感じています新鮮な気持ちとこれから共に学びあうことの歓びは、これまでと変わることはありません。これからのお互いの交流を何よりも大切にしていきたいと思います。

 皆さんが入学された大阪教育大学は、そのルーツをたどりますと、1874年(明治7年)に「教員伝習所」として産声をあげ、翌年の1875年(明治8年)に、大阪中心部の中之島の地に「大阪府師範学校」として学舎を設立することになりました。「大阪府師範学校」と、池田の師範学校、平野の女子師範学校が、本学の母体として第二次世界大戦の終戦に至るまで、大阪の教育に中心的な役割を担ってきました。現在でも附属学校は天王寺地区、池田地区、平野地区で教育活動を展開していて、附属学校園は合計で11校園にも上ります。そうした長い歴史の上に三つの師範学校を統合して戦後1949年(昭和24年)に新たに発足した組織は、新制大学として「大阪学芸大学」という名称に生まれ変わりました。さらに、1967年(昭和42年)に「大阪教育大学」へと学名を変更し、現在に至っています。
 前身の時代も含めてこの間、本学からは多くの俊秀の人材が巣立っていきました。古くは、司馬遼太郎の「坂の上の雲」の主人公の一人であり、戦前の日本陸軍騎兵隊の創始者と言ってもよい秋山好古、児童作家として有名な灰谷健次郎、また、柳田民俗学に対抗して、豊富な具体的資料を持って柳田民俗学を超えたとも言われる宮本常一等の人材は、今述べた師範学校、そして大阪学芸大学が輩出した人材です。さらには、11の附属学校園からはIPS細胞の研究でノーベル賞を受賞したことで記憶に新しい山中伸弥京都大学教授、或いは福島原子力発電所の事故で陣頭指揮を執り、日本を救ったといわれる故・吉田昌郎所長をはじめとして幾多の優秀な政治家や官僚の人たちが育ち、社会で活躍しています。
 この伝統が今も脈々と地下の伏流水のように皆さんの足元を満たし、大阪教育大学の学生としての皆さんの今後の躍進を約束してくれるよう期待したいと思います。

 大阪教育大学の活動の多くの部分は、優れた教員を養成し、学校現場で指導的な役割を果たすことのできる人材を輩出することに向けられてきました。大阪教育大学を卒業して教職に就いた先輩たちの数は十万人に近づきつつあり、卒業生の多くは、大阪を中心とする関西一円で広く活躍し、校長職を始め、小、中、高の学校で指導的な立場で活躍しています。また、各学校を指導する教育委員会においても最高責任者である教育長の多くは大阪教育大学の出身者で占められています。
 学校教育に情熱を持ち、教育職をめざす皆さんは、自分の目標が達成されることを信じてこれからの学業に打ち込んで欲しいと思います。皆さんが向き合うことになる日本の教育は、今、その全体が質の確保と高度化へ向けて大きく変化する時期を迎えています。学校教育法の改正、学習指導要領の改訂、教育公務員特例法の改正、さらには国立大学の在り方に変更を迫る国立大学法人法等の改正等が矢継ぎ早に行われ、学力の定義、学習の目標、DX等を巡る新しい教育像についてこれからの社会の在り方を見据えた議論が交わされているところです。グローバル化が進行する世界の中の日本は、これまでの教育の基盤を大切にしつつも、広く国際社会に向けて貢献できる活動が求められることになります。日本社会に貢献するとともに、国際的にも貢献できる活動と教育が求められているのだと考えることができます。これからの日本を形作る活動を皆さんの新鮮な感覚で実行してくださることを期待しています。
 また、教員養成機関として長い歴史と伝統を持つ大阪教育大学ですが、二十数年前に特設課程を核とした組織改革を行い、全国の教員養成系大学では唯一の「教養学科」を設置しました。しかし、教員養成を医学部教育や工学部の人材育成と並ぶ専門職に位置づけ、養成のための基準の充実を図るべきだとする中央教育審議会や文部科学省の意見を参考に、教養学科の特色である国際性、専門のカリキュラムの特色を一部残しつつ、教育現場の課題にアドバイスし、サポートできる人材を育成できる教育協働学科を平成29年度に新たに立ち上げました。広く、高い視点から学校を中心とする社会の様々な課題に対して支援できる人材が育ってくれることと期待しています。この学科の特色を活かした新しい大学院の設置が今年度に始まり、教育のサポート領域で国際的にも活躍できる高度な能力の養成をめざしています。
 さらに、特別専攻科、大学院にあっては、学部教育の基礎の上により高い専門性を身につけるための国立大学ならではの少人数専門教育を構築しています。学校現場ばかりではなく、広く社会で将来指導的な立場に立つ人材に育ってほしいと願っています。そうした観点から教員養成の実践性の一層の高度化を目的として、平成27年度から専門職大学院である連合教職大学院を関西大学、近畿大学と共同で設置しました。学校教員の現場における対応力の高度化の必要性が叫ばれる中、教職大学院による高い実践力を身につけた教員の必要性は今後ますます増大することと考えています。学校現場のニーズに専門的な立場から対応できる能力を一日も早く身につけて、指導的な役割を学校で果たしてくれることを期待しています。
 また、大阪市内環状線の内側にある天王寺キャンパスでは、新たに初等教育教員養成課程を設置するとともに、教員養成系としては、全国で唯一の5年制学部夜間コースによる教員養成や現職教員とコラボレートする教職大学院の活動を実施するとともに、大阪市の教育センター活動と大学の研究を連携させる新しいビルの建築も、テレビ等のニュースで取り上げているように、現在進行中です。
 これらの教育課程を大阪教育大学は、国定公園内にあるおよそ66万平方メートルの自然豊かな柏原キャンパスと、あべのハルカスの足元にある5万1千平方メートルの天王寺都市型キャンパスで展開しています。これらのキャンパスを活用して充実した学生生活をエンジョイしてほしいと思います。失敗を恐れず、人生の中で二度とめぐってはこないであろうこの貴重な時期を、自己実現と自己の確立の為に有効に過ごしていただくように強く期待いたします。

 このように、私たち大阪教育大学は、学生の学びこそが将来の社会全体の高度化と発展につながることを確信し、この間さまざまな学生支援に取り組んできています。特別経費による外国派遣への支援、英語学習スキルの獲得のための受験への広範な補助、体育系や芸術系を中心とする学生の実績の表彰等学生のサポートに努めてきています。将来有為な本学の学生の皆さんには、今後さらに様々な面でのサポートや支援が必要であるとも考えています。教育振興会や同窓会の活動等を通じて、保護者の方々も、私たち大学とともに学生をサポートいただくことを期待するところです。
 それでは皆さん、今日これからの皆さんの本学での生活が、これからの皆さんの生涯にわたる成果の基礎となることを期待して、皆さんへのご挨拶とさせていただきます。

 2021年4月2日
大阪教育大学長
栗林 澄夫

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