エッセイ

小学校
2020/06/01
俳句おばちゃん学

 「大阪の 子どもはみんな おばちゃんや」
―そんな川柳を作る子がいた。私が勤務する市内の小学校でのことだ。

 

面白い現象を一つ。東京では、若い男の子が自分のことを「うち」というそうだ。関西では、女の子が使用する言い方だ。しかも最近は、関西でも余り使われなくなって来ている。文化とは、こんな風に形を変えて残るものらしい。

加えて、現代は子どもたちが「おばちゃん化」しているように感じる。これは、喜ばしいことだ。もはや「おばちゃん」は、大阪の文化だと言ってもいい。このような大阪の子どもたちが、大人になったら…と考えると、楽しみではないか。

 

話は変わるが、俳人・与謝蕪村は大阪市都島区の生まれである。詳細な地名までは分からないが、生誕地碑は淀川河川敷にある。そんな縁もあることから、俳句指導に力を入れている。実践の概要は以下の通りだ。

まずは、自作のマンガ教材を使った授業を実施する。五・七・五のリズムと、ルールを身に付ける指導をするのだ。川柳も同時に教えて、その違い(季語の有無)と共通点(五・七・五の十七文字で作る。見たままを詠んでも、想像したことを詠んでも良い等)を確認する。はじめは、とにかく沢山創作する。次に添削。そして作品集にまとめ、互いの俳句を鑑賞し合う。また掲示板や廊下に展示し、多くの目で見て貰う。

その結果、自尊心・向上心が育つのだ。子ども(=おばちゃん)は、誉め合い・自慢の仕合いが得意である。良い意味で、屈託がない。その為、素直な気持ちを詠んだり、持ち前のサービス精神で笑いが取れるように詠んだりできるのだ。作り慣れてくると、新聞の俳句欄や俳句コンクールに応募する。これまでにも数多くの作品が入選を果たした。朝礼で表彰してもらうことで、更に創作意欲が湧いてくるのだ。

次は学校全体に活動を広める。以前は、誰もが参加できる投句形式の『俳句クラブ』を立ち上げたこともある。あくまでも、自由参加の放課後活動だ。毎月、月別季語をプリントにまとめ配布する。そして学校玄関に『俳句ポスト』を設置。横には投句用紙も常備している。

どの学年の子も、好きなときに俳句を応募できるのだ。俳句作りのポイントはポスターにして掲示する。集まった俳句は、作品集にして展示したり配布したりする。定期的に刺激を与えることで、活動を盛り上げるのが目的だ。当然、子どもたちの自尊感情も高まる。同時に担任学年の授業では、俳画も創作する。

作った俳句に、水彩の絵を添えるのだ。地元大阪市(都島区毛馬町)出身の与謝蕪村の俳画も手本にして丁寧に仕上げている。

実践を始めた頃は、「俳句は難しい」「年配の方が作るもの」というイメージを持つ子が多かった。しかし活動を続ける中で、「楽しい」「俳句ってカッコいい」という感想を持つに至った。教え合い鑑賞し合う中で、創意工夫することが自然に出来るようになった。

繰り返し作品集を鑑賞し合う内に、作品を見られることを「恥ずかしい」ではなく「誇らしい」と思うようになる。年齢に関係なく楽しみ、それぞれの個性を認め合うことが出来るのだ。 俳句実践により、言語力だけでなく、あらゆる力が身に付くようになる。「自尊感情」「達成感」「仲間意識」などだ。

そして私は思う。この子どもたちが未来の大阪を背負って立つのだ、大阪の将来は明るい、と。今日も子どもたちは、元気良く登校して来る。大阪のおばちゃん顔負けの、笑顔を湛えて。