令和6年度入学式式辞

令和6年度入学式式辞

 大阪教育大学の学部、そして大学院並びに特別専攻科へ入学された皆さん、ご入学おめでとうございます。大阪教育大学の在学生、教職員を代表し、心から歓迎の気持ちを伝えさせていただきます。

 皆さんを迎えた大阪教育大学は、今年、創基150周年を迎えた西日本最大の教員養成大学です。

 本学のはじまりは、1874年(明治7年)で、現在の大阪市中央区の難波別院(南御堂)内に設立された 「教員伝習所」です。この教員伝習所は、その翌年に、「大阪府師範学校」と改称されて、学校教員を養成するための正規の組織として位置づけられました。

 第二次世界大戦後、新制大学がスタートし、1949年(昭和24年)に大阪学芸大学が開学しました。その後、1967年(昭和42年)に大阪教育大学に学名を変更して現在に至っておりますので、今年は、創基150周年、開学75周年の節目の年になります。

 教員養成機関として長い歴史と伝統を持つ大阪教育大学ですが、今から36年前の1988年(昭和63年)に、全国の教員養成系大学では唯一、教員免許の取得を卒業要件としない「教養学科」を設置しました。その後、2017年(平成29年)に、教育現場の課題にアドバイスし、サポートできる人材を育成する「教育協働学科」に改組して、現在に至っています。教育協働学科は、広い視野で学校を中心とする社会の様々な課題に対して支援できる人材を送り出しているところです。

 さらに、特別専攻科、大学院にあっては、学部教育の基礎の上に、より高い専門性を身に付けるための、国立大学法人ならではの、少人数専門教育を構築しています。 2015年(平成27年)に、関西大学、近畿大学と共同で設置した連合教職大学院は、教員養成の実践性の一層の高度化を目的とする専門職大学院です。高い実践力を身に付けた教員の必要性は今後ますます増大すると考えています。学校現場のニーズに専門的な立場から対応できる能力を一日も早く身に付けて、学校教育の現場で、指導的な役割を果たして下さることを期待しています。

 また、大学院教育学研究科修士課程は、多職種協働による教育現場の課題解決に資する教育・研究を展開し、教員以外の立場から教育現場の課題解決・価値創造の一翼を担う、高度な人材を養成しています。新しい時代の多様なニーズに対応し、社会や地域に広く貢献するための、幅広い視野や高い研究能力・技能の獲得を期待しています。

 そして、特別支援教育特別専攻科は、インクルーシブ教育システム構築の観点から、子どもの個々の能力や個性、ニーズに応じた高度な教育支援を実践できる教員の育成をめざしています。障がいのある子どもたちの成長にかかわることに、やりがいと使命を感じて入学された皆さんが、子どもたちの能力や個性に応じた、高度な教育的支援ができる教員として、実践的な指導力を獲得されることを期待しています。

 これまで、大阪教育大学の活動の多くの部分は、優れた教員を養成し、学校現場で指導的な役割を果たすことのできる人材を輩出することに向けられてきました。大阪教育大学を卒業して教職に就いた先輩たちの多くは、大阪を中心とする関西一円で活躍し、小、中、高等学校の校長職を始め、指導的な立場で活躍しています。また、各学校を指導する教育委員会の最高責任者である教育長につきましても、多くの大阪教育大学の出身者の方々が活躍しておられます。

 学校教育に情熱を持ち、教育職をめざす皆さんは、自分の目標が達成されることを信じて、これからの学業に打ち込んでいただきたいと思います。皆さんが向き合うことになる日本の教育は、今、その全体が質の確保と高度化へ向けて大きく変化する時期を迎えています。

 中央教育審議会の令和3年答申では、2020 年代を通じて、「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学び」の実現を目指す「令和の日本型学校教育」の在り方と、それを担う教師及び教職員集団のあるべき姿を示しています。

 AI やロボット、ビッグデータ、IoT といった技術が発展した Society 5.0時代の到来に対応した、教師の情報活用能力、データリテラシーの向上は一層重要となっています。時代が今後どのようなものに変わっていくのかについては予測困難ですが、教師や学校は、こうした社会の変化を、前向きに受け止めていくことが必要となります。

 OECD(経済協力開発機構)が、81の国と地域の約69万人を対象として、2022年に実施した数学的リテラシーを中心分野とする国際学習到達度調査(PISA)の結果を、昨年12月に発表しました。日本からは、義務教育修了段階の15歳の生徒、約6,000人が調査に参加しています。文部科学省は、日本が数学や科学の分野で高水準を維持したことについて、「生徒の学習状況はおおむね良好」と評価した一方で、「生徒の回答状況から見ると、学習指導要領でも求めている実生活の中で、数学的考え方を用いて問題を解釈・解決する学習については、課題がある」と指摘しています。また、社会の情報化が急速に進展するなか、日本は、「授業や学習でのデジタル機器の利用頻度が低い」といった課題も指摘されています。

 そういった様々な日本の教育課題が縮図化している大阪において、本学は、多様な主体と協働しながら、教員の養成・研修や学校教育の高度化に取り組み、その成果を日本全国に発信・浸透させることで、新たな教員養成システムの実現をめざしています。

 令和4年に、文部科学大臣から教員養成フラッグシップ大学に指定されました。教員養成フラッグシップ大学とは、「令和の日本型学校教育」を担う教師の育成を先導し、教員養成の在り方自体を変革していくための、けん引役としての役割を果たす大学のことで、本学を含む国立の4大学が指定されています。先導的・革新的な教員養成プログラムの提案や教職科目の研究・開発を進め、教職課程に関する制度の改善への貢献を要請されており、国の、大阪教育大学に対する期待は大きく、新入学の皆さんを含め私たちの役割は極めて重要であります。

 これから皆さんが学ぶ大阪教育大学は2つのキャンパスと11の附属学校園からなっています。キャンパスの一つは、大阪府柏原市の金剛生駒紀泉国定公園内にあるおよそ67万平方メートルの自然豊かな郊外型の柏原キャンパスで、もう一つのキャンパスは、地上300メートルの超高層複合ビル、あべのハルカスがすぐ近くにある約5万平方メートルの都市型の天王寺キャンパスです。この4月に天王寺キャンパスでは、大阪市と共同して、産・官・学が連携する10階建ての教育・研究施設「みらい教育共創館」がオープンしました。5階までが本学のみらい教育共創拠点で、6階から上が大阪市総合教育センターです。

 1階と2階が、院生や学部生が集う「協働学習フロア」、そして、3階と4階は、最新の教育機器や設備を備えた「未来型教室フロア」となっています。さらに、5階には本学と共同研究を行う企業やNPO法人などが入る「オープンラボ」と、知の交流の場となるプレゼンテーションコートを備えた「産官学連携拠点フロア」があります。

 13日に行われるオープニング記念セミナーを皮切りに、このみらい教育共創館から、産官学の連携のもと、みらい教育に向けたセミナーの開催や、新しい授業方法の開発、教育データの活用等に関する研究・情報の発信や交流などを進めてまいります。

 柏原と天王寺、2つのキャンパスを活用して、充実した学生生活をしっかりと楽しんでいただきたいと思います。大学もできる限りのサポートをさせていただきます。失敗を恐れず、人生の中で二度とめぐってこないこの貴重な時期を、自己実現と自己の確立の為に有効に過ごしていただくことを強く期待しています。

 皆さんの本学での生活が、お一人おひとりの生涯にわたる成果の基礎となることを心から願い、また、転換期を迎えている日本の学校教育への貢献につながることを期待して、ご挨拶とさせていただきます。

 2024年4月5日
大阪教育大学長
岡本 幾子