令和5年度入学式式辞
大阪教育大学の学部、そして大学院並びに特別専攻科へ入学された皆さん、ご入学おめでとうございます。大阪教育大学の在学生、教職員を代表し、心から歓迎の気持ちをお伝えさせて頂きます。
COVID-19、通称新型コロナウイルスによる感染症が猛威を振るっておりましたこの数年間は、密集密接を避けるため、柏原キャンパスでオンラインを利用した入学式を行ってまいりましたが、感染状況が落ち着きを見せ始めた今年は、ここ中之島の大阪国際会議場で入学式を迎えることが出来ました。引き続き、油断はできませんが、皆さんとともに本来の学修、研究に取り組んでまいりたいと強く期待していますので、どうぞよろしくお願いいたします。
大阪教育大学の活動の多くの部分は、優れた教員を養成し、学校現場で指導的な役割を果たすことのできる人材を輩出することに、これまで向けられてきました。大阪教育大学を卒業して教職に就いた先輩たちは6万人を超えており、卒業生の多くは、大阪を中心とする関西一円で広く活躍し、小、中、高等学校の校長職を始め、指導的な立場で活躍しています。また、各学校を指導する教育委員会の最高責任者である教育長につきましても、大阪教育大学の出身者の方々が活躍しておられます。
学校教育に情熱を持ち、教育職をめざす皆さんは、自分の目標が達成されることを信じてこれからの学業に打ち込んでいただきたいと思います。皆さんが向き合うことになる日本の教育は、今、その全体が質の確保と高度化へ向けて大きく変化する時期を迎えています。
学校教育法の改正、学習指導要領の改訂、教育公務員特例法の改正、さらには国立大学の在り方に変更を迫る国立大学法人法の改正等が矢継ぎ早に行われ、学力の定義、学習の目標、高等教育の役割等について、これからの社会の在り方を見据えた対応が図られているところです。
国内におけるこうした教育を巡る変化に加えて、グローバル化が進行する世界の中にある日本は、これまでの教育の基盤を大切にしつつも、広く国際社会に向けて貢献できる活動とそれを担うことのできる人材の養成が喫緊の課題となっています。
これからの日本を形作る活動を皆さんの新鮮な感覚で実行して頂き、社会の変化や複雑な状況に、多面的な対応が出来る人材として成長して下さることを期待しているところです。
皆さんが入学された大阪教育大学は、そのルーツをたどりますと、1874年(明治7年)に「教員伝習所」として難波別院、現在の南御堂内で産声をあげ、翌年の1875年(明治8年)に、大阪の中之島の地に「大阪府師範学校」として学舎を設立しております。
私たちが今、入学式を行っている中之島の地でスタートした「大阪府師範学校」と、池田の師範学校、平野の女子師範学校が、大阪教育大学の母体として、1945年の終戦に至るまで大阪の教育に中心的な役割を担ってきました。現在でも大阪教育大学附属として11あります学校園は、池田地区、天王寺地区、平野地区で展開しています。
そうした長い歴史の上に、戦後1949年(昭和24年)に、三つの師範学校を統合して新たに発足した組織は、新制大学として「大阪学芸大学」という名称に生まれ変わりました。さらに、1967年(昭和42年)に「大阪教育大学」へと学名を変更し、現在に至っています。
来年、創基150周年を迎える大阪教育大学からは、多くの俊秀の人材が巣立って行きました。皆さんも名前を聞いたことがあると思いますが、宮本常一氏は、大阪教育大学の前身の天王寺師範学校の出身で、近代化以前の日本の民衆の暮らしを、列島の隅々まで渡り歩いて調査し、膨大な記録を残した稀有な民俗学者です。また、「太陽の子」や「兎の眼」などの作品で、児童文学者として有名な灰谷健次郎氏は、大阪学芸大学の出身です。
さらに、附属学校からは、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞したことで記憶に新しい山中伸弥京都大学教授、福島原子力発電所の事故で陣頭指揮を執り、日本を救ったといわれる故・吉田昌郎(まさお)所長をはじめとして、多くの優秀な政治家や官僚の人たちが育ち、社会で活躍しています。
教員養成機関として長い歴史と伝統を持つ大阪教育大学ですが、1988年(昭和63年)に、特設課程を核とした組織改革を行い、「教養学科」を設置しました。全国の教員養成系大学では唯一の教養学科は、その後、その特色を一部残しつつ、教育現場の課題にアドバイスし、サポートできる人材を育成する教育協働学科として、2017年(平成29年)に新たなスタートを切って現在に至っています。広く、高い視点から学校を中心とする社会の様々な課題に対して支援できる人材を送り出しているところです。
さらに、特別専攻科、大学院にあっては、学部教育の基礎の上に、より高い専門性を身に付けるための、国立大学法人ならではの少人数専門教育を構築しています。
2015年(平成27年)に、関西大学、近畿大学と共同で設置した連合教職大学院は、教員養成の実践性の一層の高度化を目的とする専門職大学院です。
学校教員の現場における対応力の高度化の必要が叫ばれる中、教職大学院による高い実践力を身に付けた教員の必要性は今後ますます増大すると考えています。教職大学院を修了して学校教育の現場を指導する方々が、学校現場のニーズに専門的な立場から対応できる能力を一日も早く身に付けて、指導的な役割を果たして下さることを期待しています。
また、大学院教育学研究科修士課程は、多職種協働による教育現場の課題解決に資する教育・研究を展開し、教員以外の立場から教育現場の課題解決・価値創造の一翼を担う、高度な人材を養成しています。新しい時代の多様なニーズに対応し、社会や地域に広く貢献するための、幅広い視野や高い研究能力・技能の獲得を期待しています。
そして、特別支援教育特別専攻科は、インクルーシブ教育システム構築の観点から、子どもの個々の能力や個性、ニーズに応じた高度な教育支援を実践できる教員の育成をめざしています。障がいのある子どもたちの成長にかかわることに、やりがいと使命を感じて入学された皆さんが、子どもたちの能力や個性に応じた高度な教育的支援ができる教員として、実践的な指導力の実現を期待しています。
これから皆さんが学ぶ大阪教育大学は、昨年、文部科学大臣から教員養成フラッグシップ大学に指定されました。「令和の日本型学校教育」を担う、新たな教員養成システムを実現するために、先導的・革新的な教員養成プログラムの提案や教職科目の研究・開発を進め、日本の教職課程に関する制度の改善への貢献を要請されています。
国の、大阪教育大学に対する期待は大きく、新入学の皆さんを含め、私たちの役割は極めて重要であります。
大阪教育大学は2つのキャンパスからなっており、一つは、大阪府柏原市の金剛生駒紀泉国定公園内にあるおよそ67万平方メートルの自然豊かな郊外型の柏原キャンパスで、もう一つは日本一の高層ビルのあべのハルカスの足元にある約5万平方メートルの都市型の天王寺キャンパスです。天王寺キャンパスでは、大阪市と共同して、産・官・学が連携する10階建ての研究施設の令和6年度の完成をめざして、現在、建設を進めています。
これらのキャンパスを活用して充実した学生生活をしっかりと楽しんでいただきたいと思います。大学もできる限りのサポートをさせていただきます。失敗を恐れず、人生の中で二度とめぐってこないこの貴重な時期を、自己実現と自己の確立の為に有効に過ごしていただくように強く期待しています。
皆さんの本学での生活が、お一人おひとりの生涯にわたる成果の基礎となることを心から願い、また、転換期を迎えている日本の学校教育への貢献につながることを期待し、ご挨拶とさせていただきます。
2023年4月5日
大阪教育大学長
岡本 幾子
令和5年度入学式式辞(PDF 199KB)